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セイドレイ【完結】
第50章 セイドレイ
弁護人の庄司が病室を出て行く。

二人きりになる楓と亜美。

今、目の前にいる少女は紛れもなく、あの『セイドレイ事件』の被害者なのだ。

黒く艶やかな髪。
真っ白に透き通った肌。
大きく澄んだ瞳に、均整の取れた鼻と口。

動画や画像で見るより、一層麗しい少女。
女の楓でも一瞬にして見蕩れてしまう美少女。

服の上からでもハッキリと分かる、乳房の豊かさ。

そして、生命を宿し膨らんだお腹。

この少女の一体どこに、事件による暗い影が潜んでいるのかと楓は疑いたくなった。


「...あの...どうぞお掛けください」

直立不動で亜美を見つめる楓に、亜美が椅子に腰掛けるよう促す。

「あ...そ、そうよねっ!ごめんごめん...では失礼して...」

楓は椅子に座っても尚、亜美に目を奪われていた。

「...あの...?私の顔、何か変ですか...?」

亜美が楓の顔を覗き込むようにしてそう尋ねる。

「...え?いやっ、全然!全然!むしろ私の顔が変!ていうか亜美ちゃんが変なら全人類が変だからっ...!って、あれ?なんかまた私余計なこと言ってる感じ...?」

「...あははっ。楓さんって、面白い方なんですね」

亜美は笑っていた。
その笑顔は、あまりにも可憐だった。

「(こ、これは...笑顔の暴力だわ...あんなことがあった後なのに、どうしてこんな風に...人を幸せにするような笑顔ができるの...!?)」

楓は戸惑う。
彼女がこれまで見てきた女達は、たとえ笑顔を見せようともどことなく影を感じたものだった。
深く傷を負った女性がもう一度心から笑えるようになるまでは、想像を絶する長い時間が必要であり、最悪の場合、二度とそんな日は訪れないこともあるのだ。

しかしーー。
まだ事件発覚から2ヶ月程しか経過していないにも関わらず、目の前の少女からはそんな影が全く感じられない。

弁護人からは、事件後、一時精神状態が不安定ではあったものの、近頃は安定していると聞いていたが...それにしても。

「...あ、ていうか今勝手に『亜美ちゃん』とか言っちゃったけど、そう呼んでもいいかな...?私のことは楓でいいよ...?」

「もちろんです。呼びやすいように呼んでください。じゃあ...楓さん。あらためて、よろしくお願いします」
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