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セイドレイ【完結】
第50章 セイドレイ
「...あの日、事件発覚の日。燃え盛る炎の中、お父様は私を抱えて、わざわざこの封筒を取りに行くためだけに部屋に戻ったんです。そうまでしてお父様が最後に私に授けたものだと思ったら、どうしてもじっとして居られなくて...。でも、私は事件後、しばらくは行動に制限がありましたし、お腹もこんな状態だったのもあって、一人では何もできなくて...。出産したら余計、しばらくは動けなくなりますし。それで...楓さんにお願いできないか、と。すいません、すごくワガママなこと言ってるのは分かってるんですが...」

そんな亜美の言葉に、楓は直感が働く。
これまで何十人もの女性と対峙してきた楓の『女の勘』とでも言おうか。

きっと、亜美と雅彦の間には、単純に被害者と加害者という関係性以上のものがあると、楓は確信した。

これ自体は、実は特段珍しいことでも無い。
特に近親相姦の被害者は、無意識に加害者である父親を庇おうとしてしまう者もいる。
子供にとって、親というのはそれだけ絶対的な存在なのだ。
ある種の洗脳に近いものもある。

亜美にとって雅彦は父親では無い。
しかし、両親を失い天涯孤独となった亜美が、生きて行くために頼らざるを得なかった雅彦に対して特別な感情を抱いてしまったとしても仕方の無いことなのだ。

たとえそれが、陵辱者であったとしても、だ。

「...分かった。全然、ワガママなんかじゃないよ。寧ろ、頼ってくれて嬉しい。亜美ちゃんのお願いは、この三流ノンフィクション作家の月島楓がしかと承りました!」

「本当に、本当にいいんですかっ!?」

「お安い御用よ。でも...もし仮に亜美ちゃんの本当の父親に会えたとして、私が何者なのか怪しまれてしまった時は...本当のことを伝えてもいいかしら?もちろん、事件の被害者だということは言わない。あくまで、亜美ちゃんの存在についてだけ...」

「...そうですよね。はい。大丈夫です。そのあたりのことも含めて、全て楓さんにお任せします。よろしくお願いします」

「分かったわ。うまくやれるか分からないけど、頑張ってみる。...あ、そろそろ時間ね...」

取材開始から1時間が経過し、楓は戻って来た弁護人と共に病室を後にした。
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