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セイドレイ【完結】
第52章 親展
そうこうしていると、車両がホームに入って来る。

(うわ~すごい人...。あ、そっか。今日は花火大会があるんだっけ...)

見るからに満員の車両内には、浴衣を着た女子の姿がちらほら伺える。

(いいなぁ。朝日と陽気に甚平さんも買ったことだし、私も今年はトメさんが詰めてくれた浴衣着ちゃおうかな)

そんなことを思いながら、亜美は車両に乗り込む。

吊り革を持ち地下鉄に揺られていると、次の駅で汗だくの中年サラリーマンが乗車し、亜美の横を陣取る。

ハンカチで押さえようとも、額から噴き出す汗。
大きな汗染みができたワイシャツ。
酸っぱい汗臭とほんのりワキガ臭を漂わせる男は、メタボで膨らんだ腹と相まって、狭い車両内の不快指数を一気に上昇させる。

周囲にいる女性はもとより男性でさえ、皆その男に対しあからさまな表情で不快感を示しているようだ。

しかしーー。

(やだ...どうしよっ...う.....)

せめて女性専用車両に乗るべきであったと、亜美は後悔した。

懐かしい臭い。

常人が忌み嫌うその臭いは、かつての亜美にとって、いつも快楽への前触れとして漂っていたものだ。

五感によって呼び覚まされる記憶の恐ろしさ、その鮮明さの瞬発力を、亜美はこの時実感する。

男の体臭が鼻から流れ込んで来るだけで、亜美はいとも簡単にあの地下室へとタイムスリップしてしまったのだ。

目はとろんと虚ろになり、乳首はピンと突起する。
まるで子宮が疼くかのように、カラダがこの男を欲しているーー。


(私...濡れて.....る)


気を抜くと、思わずワレメに手を伸ばしてしまいそうになる。

しかし、ここは地下鉄の中。

(一体私は...何を考えているの...?)

早急にこの危険な妄想を止めなければと、亜美は必死で意識を逸らそうとする。

しかしそうすればするほど、浮かんでくるのはあの日々の記憶。

満員電車の中、慎二に膣内射精をされたこと。
昨日まで片隅にあったはずのそんな記憶までもが、どうしようも無く鮮明に甦って来るのだ。

『次は~〇〇~。〇〇に停車しま~す』

車掌のアナウンスが次の停車駅を告げる。
亜美はそこで下車しなければならない。

車両のドアが開く。

亜美が下りようとすると、横に居たその男も同じ駅で下車するようだ。

(私.....私っ.......)
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