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セイドレイ【完結】
第53章 落日
その後、ろくに雅彦の姿を見ないまま3日が過ぎた。

亜美は部屋の前に食事を置いてはみたものの、雅彦がそれに口をつけた形跡は無い。

たまに深夜に物音がしていることから、恐らく夜な夜なコンビニにでも行って食料や水分を調達しているのであろうか。

せっかく塀の外へ出られたというのに、今度は部屋の中へ閉じ込めてしまったことを亜美は申し訳なく思っていた。

週が明け、今日は火曜日。
出勤日の為、亜美は慎二に雅彦のことを任せ、後ろ髪を引かれる思いで家を出た。

(いけない...気持ちを切り替えなきゃ...)

職場へ向かう車中も気分が重い。
先週、あんなことがあったのだから当然なのだが、亜美はそれ以上に安藤をはじめとする女性スタッフ達との関わり方について思い悩んでいた。
きっと今日もまた、嫌味を言われるに違いない。
せめて自身が潔白ならば良いのだが、大川の愛人どころか、既に木下や他の役員達とも肉体関係を持ってしまっている。

(結果的に...私は女を武器にしてる...?)

無い腹を探られている訳ではないところが、亜美にとっては痛手だった。

間もなく職場へ到着すると、朝のミーティングが始まる。

「...私からは以上です。他に何か連絡事項のある方...」

安藤はそう言ってスタッフを見渡すと、亜美が遠慮がちに挙手をしているのが目に入る。

「...あら、市川さん。何か?」

「あっ...はい。あの...皆さん、先週の金曜日はありがとうございました...」

亜美はあらためて、歓迎会のお礼を述べた。
数人のスタッフが軽く頷くも、安藤だけはそれを無視する。

一同に微妙な空気が流れる中、大川が口を開いた。

「...では儂から。実は昨日出勤していたスタッフは既に知っておるが、今日から市川君を事務員に転属することになった。本人へはこの後儂から伝えるので、皆はいつも通り仕事をしてくれたまえ。以上だ。では今日も一日、頑張ってくれ」

(えっ...!?)

事情を一人知らされていない亜美は混乱しその場に立ち尽くすも、他のスタッフ達は何事も無かったかのように持ち場へと散って行く。

「...ということなんで、市川さんは今日から俺らと一緒に事務所で働いてもらいますんで。この後説明しますから。よろしくー」

木下が薄ら笑いを浮かべながら、そう言って亜美の肩をポン、と叩いた。
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