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セイドレイ【完結】
第53章 落日

その後、亜美は仕事帰りに食料品を買う為、スーパーに立ち寄る。
カートを押しながら店内を巡るも、ふと気がつけば同じ場所をグルグルと回っているだけだった。
(はぁ...何やってんだろ...私...)
木下はあの後、『例の件、また考えといて下さいね』と言った。
その言い方はプレイ中ほど高圧的では無いにしろ、恐らく亜美は拒否することはしないだろう。
市川亜美が、あの高崎亜美であるという事実が徐々に他人に知れ渡って行く。
そのことが果たして、亜美に恐怖を抱かせているのかと言うと、実に微妙なところだ。
そもそも今に始まったことでは無いにしろ、亜美のセックスに対するハードルは著しく低くなってしまっている。
『減るもんじゃないんだし』
木下はそう言ったが、どこかで亜美自身もそう思っている節がある。
それが普通の感覚では無いことはもちろん分かっているつもりなのだがーー。
(私...本当は悩んでなんかいないのかもしれない...)
仕事についても、当初から大川のことよりも他のスタッフとの関わりの方が気がかりだった。
そして配属を変えられてしまった今、もうそれに悩むことも無い。
今後、出勤すれば適当な仕事を与えられ、その合間に大川と木下の相手をすることで賃金を得る。
そしてたまにあのホテルに連れて行かれたり、木下の知人らの相手をさせられたりするのだろう。
家に帰れば言わずもがな、そこに居るのは加害者である健一と慎二、そして事件によって授かってしまった愛する2人の息子だ。
これらの現状を考えた時、亜美は不思議と、これと言って悲観すべきことなど無いように思えた。
むしろ、あの得体の知れない『疼き』と『渇き』に苛まれていた頃よりもマシとさえ思える。
(となると、やっぱり...)
現在、亜美の精神状態は、他でもない雅彦によって左右されている。
6年ぶりに再会したその男は目を合わせようともせず、亜美のことを拒絶した。
『自惚れちゃん』
またも菅原の言葉を思い出し、亜美は少し恥ずかしくなる。
このまま、じきに雅彦が家を出ていくのをただ黙って見ているつもりなのかと、亜美は自分自身に問うてみる。
(そうじゃない...私は...)
亜美は何か思い立ったように買い物を済ませると、自宅へと車を走らせた。
カートを押しながら店内を巡るも、ふと気がつけば同じ場所をグルグルと回っているだけだった。
(はぁ...何やってんだろ...私...)
木下はあの後、『例の件、また考えといて下さいね』と言った。
その言い方はプレイ中ほど高圧的では無いにしろ、恐らく亜美は拒否することはしないだろう。
市川亜美が、あの高崎亜美であるという事実が徐々に他人に知れ渡って行く。
そのことが果たして、亜美に恐怖を抱かせているのかと言うと、実に微妙なところだ。
そもそも今に始まったことでは無いにしろ、亜美のセックスに対するハードルは著しく低くなってしまっている。
『減るもんじゃないんだし』
木下はそう言ったが、どこかで亜美自身もそう思っている節がある。
それが普通の感覚では無いことはもちろん分かっているつもりなのだがーー。
(私...本当は悩んでなんかいないのかもしれない...)
仕事についても、当初から大川のことよりも他のスタッフとの関わりの方が気がかりだった。
そして配属を変えられてしまった今、もうそれに悩むことも無い。
今後、出勤すれば適当な仕事を与えられ、その合間に大川と木下の相手をすることで賃金を得る。
そしてたまにあのホテルに連れて行かれたり、木下の知人らの相手をさせられたりするのだろう。
家に帰れば言わずもがな、そこに居るのは加害者である健一と慎二、そして事件によって授かってしまった愛する2人の息子だ。
これらの現状を考えた時、亜美は不思議と、これと言って悲観すべきことなど無いように思えた。
むしろ、あの得体の知れない『疼き』と『渇き』に苛まれていた頃よりもマシとさえ思える。
(となると、やっぱり...)
現在、亜美の精神状態は、他でもない雅彦によって左右されている。
6年ぶりに再会したその男は目を合わせようともせず、亜美のことを拒絶した。
『自惚れちゃん』
またも菅原の言葉を思い出し、亜美は少し恥ずかしくなる。
このまま、じきに雅彦が家を出ていくのをただ黙って見ているつもりなのかと、亜美は自分自身に問うてみる。
(そうじゃない...私は...)
亜美は何か思い立ったように買い物を済ませると、自宅へと車を走らせた。

