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セイドレイ【完結】
第53章 落日
「...もう、妊娠してるかもしれないの」

「あ、相手はどういうつもりなんだ...?」

「...1人じゃないの」

「なに...?」

「...誰だかっ...分からない...のっ...」


亜美は雅彦に尻を向けたまま、カラダを震わせながらそう言った。
すると同時に、亜美の陰部は更に愛液を分泌させる。

雅彦には事情が分からない。
仮にどんな事情があろうとて、当然ではあるがそれに口出しする権利も無い。

健一と夫婦になり、慎二を同居させ、雅彦の出所を待つことを決めたのは、確かに亜美の意思かもしれない。

でももう、あの頃とは違うのだ。
今は亜美を縛り付ける男共も、閉じ込めておく地下室も無いはず。
そんな地獄からやっとの思いで解放されたはずではなかったのか。

それなのに、何故ーー。


「...私、ずっと戻りたかった。あの夜...あの最後の夜。壊れていく私を見て、お父様が叫んだあの夜にっ...」

「そんなっ...何を馬鹿なことを...?」

「私もそう思う。でも...この6年間、ずっと。お父様の声が耳から...離れなかった。お父様の目の前で壊れていくあの時の自分が...あの『高崎亜美』という女がっ...亡霊みたいに、私の中にずっと居るの...。母親になって、健一さんの妻になって、これでいいんだ、って。これが私の幸せなんだ、って...そう自分で納得しようとしてた時もある。だけどっ...違うの...本当の私は.....私が本当に望んでいたことはっ...」

「.....亜美っ!!」

次の瞬間、雅彦は起き上がると、そのまま亜美を押し倒す。
雅彦は太いその腕で、亜美の細い手首を折れんばかりの力を込めて握っていた。

「...お父...様...?」

雅彦と亜美は互いを見つめ合う。
亜美の目に映った雅彦の顔。
それは、普段の険しいものとも、先程ふいに見せた穏やかなものとも違っていた。

獰猛な、雄の顔。
理性の皮を剥いだ、ケダモノの顔。
処女を散らされた夜に見たのと同じ顔が、そこにあった。

そんな凄みに圧倒されつつ、亜美は下半身を掠める違和感に気づく。

「...お、お父様っ...これっ...!?」

雅彦は鼻息荒く、肩で呼吸をする。
その股間が熱を帯びていることを察知した亜美は、猛り狂う雅彦の顔を見つめ、再びこう囁いた。


「.....おかえり...なさい」
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