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セイドレイ【完結】
第53章 落日
部屋に上がると、そこに居たのはこの家の主の男が1人。

「ま、まだ皆、仕事中みたいで...よかったらその辺に座っててください」

「...はい」

いきなり襲われる覚悟で部屋に入った亜美だったが、今のところこの男からはそんな気配は感じられない。

築浅の1LDKのアパート。
主に新婚夫婦が住むような物件に暮らすその大学生は、Tシャツにデニムというラフな格好で亜美を出迎えた。

中肉中背。
少し腹が出ているか。
髪は黒く、短め。
眼鏡を掛けており、あまり目立たない印象を受ける。
童貞と自蔑するだけに、モテそうな雰囲気は皆無。
これと言って特徴の無いその男は、亜美よりも1つ歳下であるという。

リビングには大型のテレビが。
天井にはホームシアターだろうか、何やらプロジェクターのようなものが取り付けられている。
部屋の隅に目をやると、2つのディスプレイが置かれたPCデスクがあり、その周辺だけやけに物が騒がしい。
その他家電や家具も一通りそれなりの物が揃っており、やはり学生という身分にしては裕福であることが伺える。

男は緊張しているのか、はたまた女に免疫が無いのか。
いざ亜美を目の前にすると、メッセージのやり取りをしていた時の勢いはどこへやら。
亜美に近づいて来ようとはせず、何やらおどおどした様子で逐一スマホをチェックしているようだった。

「あの...」

亜美が男に声を掛ける。

「はっ、はいぃっ!!」

男は驚いた様子で、身を強ばらせている。

「...お名前は?」

「えっ!?」

「あなたの...お名前は?」

「あっ!えーと...立山...です...」

「そうですか。あの...立山さん、ひとつ聞きたいんですけど。木下さんからは私のことを、どう聞いているんです...?」

「えっと...ですね、そ、その...あ、あなたが...亜美さんが、あの『セイドレイ事件』の被害者で...そんで...お、俺達に『協力してほしい』って」

「協力...?」

「は、はいっ。元々は木下さんの会社の社長さん?大川って人からの頼みみたいなんですけど...場所を提供して欲しい、って。で、俺が一人暮らしだしちょうどいい、ってことになって...」

「社長が...場所を?」

「...はい。その代わりに...その...亜美さんを好きにしていい、と言われまして...」
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