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セイドレイ【完結】
第53章 落日
和室に入ると雅彦は布団に腰を下ろした。
亜美は畳の上で正座をし、雅彦の様子を伺う。

「...帰るなり呼びつけてすまんかったな」

「い、いえ...私も遅くなってしまって...ごめんなさい」

「どこに行っていた?」

「え...っと......」

「...男に抱かれていたんだろう?」

「.................」

「こっちへ来なさい」

「え...?」

「...いいから、ワシのそばに来いと言ってるんだ」

そう言って雅彦は、亜美を自分の元へと抱き寄せる。
亜美は雅彦に肩を抱かれ、その厚い胸板に顔を埋める。

「...自分でも説明がつかん。だがワシは今...猛烈に腹が立っている。お前にじゃない。お前を弄んでいるどこぞやの奴らにだ。だがそんなこと、ワシが言えた義理ではないことも承知している」

「...お父...様?」

「今更嫉妬とはみっともないな。自分自身に目も当てられん。お前をそんな風にしてしまったのはこのワシだと言うのに。やはり新堂の言う通りだった。ワシは救いようの無い愚か者だ」

「そ、それなら...私だって...」

「...お前はあの日々に戻りたい、と言ったな。だがもう無理だ。それはお前が一番分かっていることじゃないのか?」

「私が...一番分かっている...」

亜美はそう呟くと、しばし黙り込む。

「...そうですね。その通りかもしれません。...実は今日、酒井さんに会ったんです」

「.....そうか。それでよく無事に帰って来れたな」

「...驚かないんですか?」

「今更もうそんなことで動じたりせん。お前が健一と夫婦になった時点で、既にワシの理解の範疇を超えておる」

「それも...そうですね...」

「それで何があった?」

「.....もう一度、あの時に戻りたいんじゃないのか、って。酒井さんに...そう言われたんです」


亜美は雅彦に、これまでの経緯を打ち明ける。
不幸な偶然により、かつての会員である大川と思わぬ再会を果たしてから今日までの出来事を。

亜美は話しながら思う。
これは偶然などではないのかもしれない、とーー。

そしてそれに耳を傾ける雅彦も、同じことを感じていた。


運命。
その言葉の持つ意味をいま一度噛み締めながら、2人はただ身を寄せ合い、一夜を過ごしたのだったーー。
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