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セイドレイ【完結】
第53章 落日
(一体...誰がこんなことを...)

亜美は、剥がしたビラを丸めてゴミ袋に入れながら考えていた。

子供達が登校するのを見送った時点では貼られていなかった。
となると、このほんの1時間程の間に起きた犯行である。

閑静な住宅街。
朝の出勤や通学時間を過ぎてしまえば、確かに人通りは少ないし、付近は生活専用道路に囲まれている為に交通量もほぼ無い。

(だとしても...こんな明るい時間に堂々とっ...)

亜美はくしゃくしゃに丸めたビラを握り締め、この時初めて後悔を身に染みて感じていた。

やはり、あんな男達に関わるべきでは無かったのだ、と。
遠き日の快楽の記憶に囚われ、母親としてあまりに無自覚な行動をしてしまっていた。
自分さえ言いなりになっていれば良い、例え真似事でもあの日に帰れるのなら...と淡い期待に胸を膨らませていたが、甘かった。

かつてはこの身を呈してでも、大切な物を守ろうとしていたはず。

(なのに...今の私は...自分のことしか考えて無い...?)

亜美がそんなことを思っていると、バイクに乗った郵便局の配達員が門の前で停まり、ポストに一通の郵便物を入れて去って行った。

(なんだろう...?)

亜美は気になりポストを開けると、そこには白い封筒が一通。
それを手に取り、差出人を確認しようとした、その時ーー。

「...もーらい、っと!」

そう言って、何者かが亜美の手からその封筒を取り上げた。
そして、亜美の耳元でこう囁いた。

「...よぉ。朝からあんなビラ撒かれて何やら大変だったみたいだなぁ?」

「.....やっぱり、あなたがっ...!」

亜美はその声の主を、キッと睨みつける。
そこに居たのは、酒井だった。

「...まぁまぁ、そんな怖ぇ顔すんなって~。ちょっとしたジョークだろぉ?お前のドMスイッチが入るように盛り上げてやったつもりなんだがなぁ」

「ふ...ふざけないでっ!家族を巻き込むようなことは困りますっ...こんなことするなら、本当に警察にっ...」

「へぇ...家族、ねぇ。母は強し、ってやつかぁ?でもそんな家族を放ったらかしてオマンコやめられねぇのはどこのどいつだ...?あ?」

「.....とにかくっ!もう金輪際こんなことは...そ、それと、その手紙っ...返してくださいっ...!」
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