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セイドレイ【完結】
第53章 落日
「...そういや、中身見てみるか?水野貴之からの手紙...」

酒井はそう言うと、ズボンのポケットに仕舞っていた封筒を取り出す。

「...か、勝手に開けないでっ...」

そんな亜美の訴えも虚しく、酒井は乱暴な手つきで封を切り、その中身を確認する。

「どれどれ...お.........?ははっ...ははははっ...!へぇ。そうかそうか...こりゃおめでたいぜ。...ほら、これ見てみろ?」

そう言って、酒井は亜美に封筒の中身を見せた。

2つ折りの白いメッセージカードが、亜美の目の前に現れる。

(これ...はっ...)

ーー結婚式の招待状だった。
亜美は思わず目を丸くし、そのカードに見入ってしまう。

貴之の名前の横に、妻となる女性の名前が並んで書かれている。
そして、カードの端には貴之の筆跡でメッセージが添えられていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

亜美へ

元気?
色々あったけど、俺は亜美に祝ってもらえたら嬉しい。
待ってます。

貴之

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(水野くん.....)

その短いメッセージが、貴之の声で脳内再生される。
簡潔ではあるが、だからこそ込み上げて来るものがあった。

自ずと亜美は、カードに触れようと手を伸ばす。

しかしーー。

「...おっ、と!誰が返してやるって言った...?なぁ?」

酒井がそう言ってカードを引き上げた次の瞬間、鈍い打撃音と共に亜美の顔面の右半分に強い衝撃が走った。

「ぐふっっ...!!」

亜美は短いうめき声を上げ、床に叩きつけられる。
酒井は、亜美の右頬を殴ったのだ。

「...平和ボケ、ってやつかぁ?言ったろ?俺が思い出させてやるよ、ってな」

握った拳で指を鳴らしながら、酒井は床にうずくまる亜美にそう言い放った。

「うっ.....イタ...ぃ.....うぅっ.....」

亜美は殴打により紅く染まった頬に手を当て、身を強ばらせながら小刻みに震える。
痛みの輪郭が徐々にはっきりし始めると共に、追憶の彼方からあの日々の感覚が鮮明に甦って来る。

「...どうだ?殴られて少しは目ぇ覚めたか?お前はまだまだこんなもんじゃねぇよなぁ...?」

「イッ...嫌っ.....」
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