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セイドレイ【完結】
第53章 落日
恐怖に慄く亜美に追い討ちをかけるように、酒井は亜美の髪の毛を掴むと上方へ引っ張り上げ、顔と顔を近付ける。

「痛っ...!やめ...てっ.....」

再び酒井と目が遭う。
酒井の据わった目は、それだけで亜美の息の根を止めてしまいそうな凄みを帯びていた。

「...良かったじゃねぇか。水野の奴、お前と別れて幸せそうで。お前が水野の人生狂わせたんだもんなぁ?」

「いっ...言わない...でっ...」

「それに比べてお前はどうだ?あ?こんなシラケた家で、あんな奴らと家族ごっこか?けっ、笑えるよなぁ。そうやってただ現実から逃げてる奴が、幸せなんかになれると思うのか?」

「違っ...私はっ.....」

「お前のやってることはなぁ、ただの欺瞞なんだよ。本当はどうでもいいんだろ?子供のことなんて。じゃなきゃあんな奴らと家族にならねぇし、わざわざ大川の下で働いたりしねぇよなぁ!?ああ!?」

「ぃ、嫌ぁっ...!」

酒井は、亜美の髪の毛を掴む力を更に強める。

「また求めてくれる適当な男達が現れて、都合良く昔の自分に戻れるとでも思ったのか?お前も堕ちたもんだよなぁ。俺が知ってるお前はそんな女じゃねぇ。今のお前は、ただの盛りのついた雌猫だ。自ら男にケツ振ってる時点で、昔のお前に戻れる訳がねぇんだよ!」

(...そっか。私.....)

酒井の言葉に、亜美は何かを悟ったのか。
髪を掴まれ吊るされたまま、糸が切れたようにみるみる全身の力が抜けて行き、四肢をぶらん、と投げ出す。

「...やっと思い出したか?お前は娼婦か?痴女か?違うだろ?...お前が本当に求めているものは、男の慰みものになることじゃねぇ。絶対的な支配と暴力によって全てを奪われること...ただそれだけだ。そして、それをお前に与えてやれるのは、もうこの俺しか居ない」

(...この人しか...いない...?)

「もう余計なことは考えるな。俺がまた、あの場所へお前を連れてってやっから。もう一度あの景色を見せてやる。だから俺に着いて来い。...お前の還るべき場所はどこだ?」


(私の...還るべき...場所.....)


「...............ごっ.....ご主人.....さま.........?」
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