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セイドレイ【完結】
第53章 落日

「...そうだ。良い子だな。亜美、おかえり...いや、俺がただいま、だな。6年も待たせてすまなかったな...」
先程とは打って変わって、別人のような目付きで微笑む酒井。
髪を掴んでいた手を解き、そのままポンポン、と亜美の頭を撫でる。
「...私っ.....で、てもっ.....」
「まぁまぁ、ゆっくり行こうぜ?今はちょっと混乱してるだけだ。じきに全て思い出す...。あ、子供のことなら心配すんな。あれは俺の子だ。今すぐには無理だが...そのうちちゃんと責任は取る。当然だろ?父親だからな。俺の子をよく産んでくれた。ありがとな...」
「あなたの...子.....」
「ああ。俺にはそれが分かってた。...本当は一緒に育てたかったんだよ...嘘じゃないぜ?だがあの時は仕方なかったんだ。新堂さんに逆らえなかったからな。お前には申し訳ないことをしたと思ってる...」
通常であれば、これが全くのデタラメであることは容易に想像できる。
そして仮に真実だとしても、酒井を受け入れる理由にはならない。
しかし、酒井による殴打のショックと、言葉によって深層心理を暴かれた今の亜美には、それさえも判断がつかない状態にまで錯乱し、うろたえていた。
一種の催眠状態に近いだろう。
「今後のことは、少しずつ考えて行けばいい。あくまで表向きは自然にやるんだ。なぁに、難しいことじゃないぜ。時が来たら、お前はあの馬鹿夫と離婚する。そしたら俺の妻になるんだ。もちろん、2人の子供も一緒にな。子供達だって、本当の父親と暮らした方が良いに決まってる」
「...健一...さんと...離婚.....」
「ああ。要らないものはひとつずつ捨てて行こうぜ?お前はこの6年、余計なものを拾い過ぎた。寂しかったんだろ?辛かったよな?でも、もう大丈夫だ。俺が居る。だから、余計なものは捨てるんだ...」
酒井はそう言うと、貴之からの結婚式の招待状を両手で握り、雑巾を搾るようにして捻った。
「あっ...あぁっ...」
酒井の手で捻じ曲げられた招待状が、こよりのように棒状になるのを、亜美はただ見ていることしか出来なかった。
「...今更だよな、水野も。お前を苦しめるものは、俺がこうやって捨ててやるーー」
先程とは打って変わって、別人のような目付きで微笑む酒井。
髪を掴んでいた手を解き、そのままポンポン、と亜美の頭を撫でる。
「...私っ.....で、てもっ.....」
「まぁまぁ、ゆっくり行こうぜ?今はちょっと混乱してるだけだ。じきに全て思い出す...。あ、子供のことなら心配すんな。あれは俺の子だ。今すぐには無理だが...そのうちちゃんと責任は取る。当然だろ?父親だからな。俺の子をよく産んでくれた。ありがとな...」
「あなたの...子.....」
「ああ。俺にはそれが分かってた。...本当は一緒に育てたかったんだよ...嘘じゃないぜ?だがあの時は仕方なかったんだ。新堂さんに逆らえなかったからな。お前には申し訳ないことをしたと思ってる...」
通常であれば、これが全くのデタラメであることは容易に想像できる。
そして仮に真実だとしても、酒井を受け入れる理由にはならない。
しかし、酒井による殴打のショックと、言葉によって深層心理を暴かれた今の亜美には、それさえも判断がつかない状態にまで錯乱し、うろたえていた。
一種の催眠状態に近いだろう。
「今後のことは、少しずつ考えて行けばいい。あくまで表向きは自然にやるんだ。なぁに、難しいことじゃないぜ。時が来たら、お前はあの馬鹿夫と離婚する。そしたら俺の妻になるんだ。もちろん、2人の子供も一緒にな。子供達だって、本当の父親と暮らした方が良いに決まってる」
「...健一...さんと...離婚.....」
「ああ。要らないものはひとつずつ捨てて行こうぜ?お前はこの6年、余計なものを拾い過ぎた。寂しかったんだろ?辛かったよな?でも、もう大丈夫だ。俺が居る。だから、余計なものは捨てるんだ...」
酒井はそう言うと、貴之からの結婚式の招待状を両手で握り、雑巾を搾るようにして捻った。
「あっ...あぁっ...」
酒井の手で捻じ曲げられた招待状が、こよりのように棒状になるのを、亜美はただ見ていることしか出来なかった。
「...今更だよな、水野も。お前を苦しめるものは、俺がこうやって捨ててやるーー」

