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セイドレイ【完結】
第53章 落日
「...チッ。これだから年寄りは...冗談も通じねぇ。ほら、返してやるよ。『今』はな...」

酒井はそう言い捨て、亜美を雅彦へ向けて放り投げた。
雅彦はすかさず駆け寄り、亜美を抱き止める。

「亜美っ...!!」

「...お父...さま.....」

雅彦の腕の中で、亜美は乱れた黒髪の隙間から虚ろな瞳を覗かせる。

そんな2人を、高みから見下す酒井。

「...けっ、『俺の女』なんて、よく言えたもんだぜ。そろそろ出所してる頃とは思っていたが、まさかあんたまでこの女に囲われてるなんてなぁ。親子揃って情けないねぇ」

挑発するようなその物言いに、雅彦は酒井をキッと睨み付ける。

「おっさん、恨むなら俺じゃなく、自分を恨むことだな。新堂さんにも懇々と言われてたろ?この女がこうなったのは、他でもない、あんたのせいだ。しかし6年経って少しは反省したかと思えば、むしろより愚かになってんじゃねぇか...呆れたぜ」

「ぐっ......黙れっ!貴様に言われる筋合いなどない!お前らこそっ...今更亜美に何をしようとしてるんだっ!?」

「...あ?そいつは人聞きの悪い。勘違いすんな?俺らはあくまでこの女の望みを叶えてやってるだけなんだよ。こいつを『在るべき場所へ還してやる』、その手伝いをしてやるだけだ。...それがせめてもの償いってもんだろ?はははっ!」

「...っ、貴様ぁぁっ!!」

雅彦が酒井の胸ぐらに掴みかかる。
一触即発、今にも掴み合いの喧嘩が始まらんとしたその時ーー。

「...やめてっ...お父様っ...!」

亜美はそう言って、雅彦の右足にしがみついた。

「...あ、亜美...??」

「...いいのっ...全部...私がいけないのっ...だから、やめて...」

「...っ、しかしっ...」

亜美の静止により、雅彦は酒井の胸ぐらを掴んだ手を解く。

「...ということみたいだぜ?おっさん。ま、今日のところはこのくらいにしてやる。せいぜいこの後『家族会議』でもして、今後どうするか話し合うこったなぁ」

酒井はそう言うと、部屋から出て行こうとする。

「ま、待てっ!!」

雅彦が呼び止めると、酒井はドアの前で振り向きざまにこう言い残し、部屋から去って行った。


「...あ、せっかく結婚式に招待されたんだから、ちゃんと返事出しとけよ。...じゃあな」
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