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セイドレイ【完結】
第53章 落日

それから数週間が経過したとある日。
亜美は独り、産婦人科の待合で問診票を記入していた。
理由は明白だった。
生理が来なかったのだ。
先週、既に妊娠検査薬も試していた。
その時点で、最終生理から4週と6日程が過ぎていただろうか。
結果は、陽性反応だった。
見事なまでにくっきり赤く刻まれた一本線を見るのは、かれこれ人生で3度目、ということになる。
検査薬による陽性反応を受け、亜美はインターネットで自宅から少し離れた産婦人科を探し、電話をかけた。
『妊娠をしているかもしれないのですが...』
恐る恐る、電話の向こうの産婦人科のスタッフにそう告げた。
亜美は出産こそ経験しているものの、妊娠初期から産婦人科にかかるのはこれが初めてのことだ。
かつて、それらは全て産科医である雅彦が管理していたからだ。
亜美がスタッフに状況を説明すると、4週目ではまだ早い為、5週を過ぎてから来院するようにと言われ、その場で予約をし、電話を切った。
そして今日、その産婦人科に来ている。
問診票を上から順に記入していると、避けては通れない項目に差し掛かる。
『出産・中絶』
仮に妊娠していた場合、どうするかを問うその欄。
亜美はそこでペンが止まる。
このどちらかへ『〇』を記入するだけで、今この腹に宿っているであろう生命の運命を決定付けてしまうのだ。
ペンを持つ手が微かに震えている。
亜美は息を止めて、その欄に『〇』を記入した。
ネットの評判通り、良い産院なのであろう。
白を貴重に清潔感漂うインテリアに囲まれたその待合室には、大きな腹を抱えた妊婦が次々とやって来る。
外側から見ただけでは、それらの妊婦たちが皆幸せであるかどうかは分からない。
しかし、腹の大きさから察するに、皆産むことを選択した妊婦には違い無かった。
特異な状況であったにしろ、亜美も一度は出産を経験している。
だからこそ、これから自分がしようとしている選択が、同じ待合室に居る他の妊婦とは全く異なるのだということを思い知るのだ。
記入を終え、しばらく待っていると、亜美の番号が呼ばれた。
亜美は伏し目がちに診察室へと入って行く。
医師は亜美が記入した問診票に目を通すと、柔らかな口調でこう言った。
「.....分かりました。手術を希望されるということで。では、今から内診しますので...」
亜美は独り、産婦人科の待合で問診票を記入していた。
理由は明白だった。
生理が来なかったのだ。
先週、既に妊娠検査薬も試していた。
その時点で、最終生理から4週と6日程が過ぎていただろうか。
結果は、陽性反応だった。
見事なまでにくっきり赤く刻まれた一本線を見るのは、かれこれ人生で3度目、ということになる。
検査薬による陽性反応を受け、亜美はインターネットで自宅から少し離れた産婦人科を探し、電話をかけた。
『妊娠をしているかもしれないのですが...』
恐る恐る、電話の向こうの産婦人科のスタッフにそう告げた。
亜美は出産こそ経験しているものの、妊娠初期から産婦人科にかかるのはこれが初めてのことだ。
かつて、それらは全て産科医である雅彦が管理していたからだ。
亜美がスタッフに状況を説明すると、4週目ではまだ早い為、5週を過ぎてから来院するようにと言われ、その場で予約をし、電話を切った。
そして今日、その産婦人科に来ている。
問診票を上から順に記入していると、避けては通れない項目に差し掛かる。
『出産・中絶』
仮に妊娠していた場合、どうするかを問うその欄。
亜美はそこでペンが止まる。
このどちらかへ『〇』を記入するだけで、今この腹に宿っているであろう生命の運命を決定付けてしまうのだ。
ペンを持つ手が微かに震えている。
亜美は息を止めて、その欄に『〇』を記入した。
ネットの評判通り、良い産院なのであろう。
白を貴重に清潔感漂うインテリアに囲まれたその待合室には、大きな腹を抱えた妊婦が次々とやって来る。
外側から見ただけでは、それらの妊婦たちが皆幸せであるかどうかは分からない。
しかし、腹の大きさから察するに、皆産むことを選択した妊婦には違い無かった。
特異な状況であったにしろ、亜美も一度は出産を経験している。
だからこそ、これから自分がしようとしている選択が、同じ待合室に居る他の妊婦とは全く異なるのだということを思い知るのだ。
記入を終え、しばらく待っていると、亜美の番号が呼ばれた。
亜美は伏し目がちに診察室へと入って行く。
医師は亜美が記入した問診票に目を通すと、柔らかな口調でこう言った。
「.....分かりました。手術を希望されるということで。では、今から内診しますので...」

