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セイドレイ【完結】
第53章 落日
「…どうだぁ?寝覚めの一発は。お前のためにこんなに沢山の"ファン"が集まってくれたぜ~?」

酒井の茶化す声が聞こえる。
やはり、今日ここに集められているのは『新たな客』ということなのだろう。

「あ……ありがとう…ございますっ……私のためにっ……」

顔の見えない客を相手に、亜美は感謝の言葉を述べる。

「みーんな、画面越しにお前でシコってた奴等ばかりだぜ?良かったなぁ…もうJKっつー肩書きが無くなってもこうしてまだまだ使ってもらえるなんて、便器冥利に尽きるってもんだよなぁ?」

ロリコン文化が根強いここ日本で、確かに当時『女子高生』という亜美の肩書きはセンセーショナルに響いただろう。
監禁、強姦の末に妊娠してしまったその15歳の少女は、男の倒錯した性癖の象徴としてその役目を一挙に引き受け、事件後6年経った今でも間接的に消費され続けていたのだ。

幸運にも今日この場に居合わせた男達も、かつては皆そんな傍観者の一人だった。
取り立ててひけらかすような地位も名誉も無い、ごく普通の一般人。
会社員、学生、フリーター、無職。
普段は理性と共生している名もなき彼らが、この秩序無き混沌とした瞬間に立ち会っているというのだから恐ろしい。

目の前に居る、一部の特権階級だけに使用が許されていたはずのその玩具は、今や少し何かを我慢すれば手の届くところにあるのだ。

では何故、亜美は彼らをここまで魅了してしまうのか。
事件の影に潜む『少女A』の悲哀は、余りある程の付加価値だ。
それまで現実には存在し得ないと思っていた、男にとって何もかも都合の良い女が実在したという事実。
男の卑劣極まりない妄想を具現化したこの女が、己がケダモノとして性を受けたことを肯定してくれたように感じたのだろう。

そして。
既に人の道を外れたーー、外れざるを得なかった亜美にとっても、そんな自身を肯定できる唯一の手段が、こうして肉塊となり男から搾取され続けることだった…のかもしれない。


悲劇のヒロインが愛に触れ、幸せになるーー。
おとぎ話なら、そこで終わる。
そしてその続きを知りたがる者は、居ない。

救いや啓示など何一つとして無い、残酷なまでの現実がただ続くのを、誰も知りたいとは思わないのだ。



「…じゃあそろそろ、今日一番のサプライズと行くかぁ?」
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