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セイドレイ【完結】
第53章 落日
酒井が呼ぶ声に、積まれた荷物の影から3人の男が姿を現す。

「…えっ……?」

恍惚の表情から一転、亜美はその信じられない光景に目を疑う。

向かって左には木下。
そして反対の右側には、その後輩である立山。

しかし問題なのは、その2人の中央に居る男だ。

木下と立山は、中央の男の腕を引き、まるで連行するかのようにゆっくりと亜美に向かって近付いて来る。


「おっ…お父様っ…!?ど、どうしてっ……?」


そこに居たのは、雅彦だった。

雅彦の上半身はロープが巻かれ、拘束されている。
よくよく見てみると、顔には複数のアザが。
亜美が雅彦の為に選んだYシャツの首元は乱れ、争った形跡が見られた。

雅彦はじっと目を瞑り、亜美を見ようとしない。

「…お父様っ!あぁっ…どうしてっ…こんなことにっ…」

先程まで従順だった亜美が、抵抗を見せ始める。
繋がれた鎖が軋む音が、廃倉庫に虚しく響く。

しかし亜美がどれだけ呼びかけようとも、雅彦は目を瞑ったまま、何も言葉を発しない。

激しく動揺する亜美を見かねた酒井が、ため息混じりにこう言った。

「…まぁまぁ、そんな驚くこたねぇだろぉ?このジジイはそもそも、俺達と同じ側の人間なんだぜ…?なぁ?武田雅彦さん?」

亜美は酒井をキッと睨みつける。

「…い、今すぐお父様を解放してっ…!どうしてこんなことするのっ…!?」

「…………あ?」

すると酒井は亜美の前に立ち、腕を思い切り振り上げた。

パーーンッッ、という音と共に、亜美の左頬に酒井の強烈なビンタが繰り出される。

雅彦はその音に、ピクりと右目をうっすら開く。

「っ……痛っ……」

更に酒井は、苦痛に顔を歪める亜美の髪の毛を引っ張りながら、いつになく激しい口調で怒鳴った。

「…んだとその口の聞き方はぁ!!?ああん??!便器がご主人様に命令してんじゃねーぞぶっ殺すぞ!!??」

「…ご、ごっ…ゴメンナサイ……」

「次同じことしたらゲンコツで腹パンだからなぁ!?覚悟しとけよこの雌豚がっ…!!」

倉庫内の空気が一変、恐怖と緊張に包まれる。
それまで興奮していた男達も、酒井のそのあまりの暴力性に完全に萎縮していた。

「…たく、余計なことさせやがって。せっかくお前の為にこの老いぼれを連れて来てやったってーのによ…」
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