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セイドレイ【完結】
第53章 落日
すると、酒井を筆頭にその場に居た男達全員が、倉庫の出入口に向かって一斉に逃げ出して行く。

酒井は全員が外へ出たことを確認すると、倉庫の扉を閉め、もう一度ここへ戻って来るつもりで外から南京錠を掛けた。

咄嗟の状況判断で、ひとまず客達を退避させ口止めさせた後、このことを加害者の会のメンバーらに報告し、その後の判断を仰ごうと考えたのだ。



倉庫内に置き去りにされてしまった、雅彦と亜美ーー。

「お父様ぁっ…!?」

亜美は、血で真っ赤に染まった雅彦の元へと駆け寄ると、縄を解き、頭を抱えて膝の上に乗せる。

「お父様っ…しっかりっ…!お父様っ!!」

その呼び掛けに、雅彦がうっすらと目を開ける。

「……………ぁ……あみ……かっ…?」

「お父様っ…!亜美ですっ…!良かった…今すぐ救急車を呼ばないとっ…でもっ…私っ…どうしようっ……」

「………その…必要は……無い……ワシは……もう…死ぬ……あの時から……分かっていた……」

「おっ…お父様っ…?」

「……ムショの中から…お前に…手紙を……書いたとき……あ、あれ…はっ……その…つもりだった……それがっ…今日まで…無様に…生きてしまった……ゴホッ、ゴホォッ…」

「…お父様っ…もう喋っちゃダメぇっ…分かったからっ……私っ、今から誰か呼んで来るからっ…だからここで待っててっ…?」

「…む……無駄…だ……この…辺りには……何も…な、いっ……それに……もう……間に…合わん……」

「そんなっ…!そんなのっ…嫌っ…!私のっ…私のせいでっ…!」

「…………あ…み…?」

すると雅彦は、亜美の腹に手を伸ばし、愛でるようにそっと撫でた。

「お父様っ…?」

「……これ…は……ここにっ…居る……のはっ……ワシの…子だな……?」

その言葉に、亜美は溢れ出る涙を堪えることが出来ない。

「…ウッ…ウウッ……はいっ…そうですっ……お父様と…私の…赤ちゃんですっ…」

「…そう…か………う、生んで…くれる……か…?」

「…はいっ…絶対に…絶対にっ……生みますっ…生むからっ…だからっ……!」


雅彦は、亜美の顔へと腕を伸ばし、頬を伝う涙を親指で拭う。

涙で濡れた頬に、血の通った、温かい雅彦の体温が伝う。

その太い腕に、亜美はそっと両手を添え、頬を擦り寄せた。
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