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セイドレイ【完結】
第54章 最終章:夢のあと
奇妙な夫婦のやり取りの後、亜美は寝室を出るとシャワーを浴び、裸にバスタオルを巻いた格好で和室へと向かう。

雅彦のために用意したこの部屋。
自身の死期を悟っていた雅彦は、この若々しい畳に何を思っていたのだろう。

亜美は、雅彦の遺影に手を合わせる。
この写真は、かつてまだ武田クリニックが存在していた頃、病院のホームページ用に撮影されたものらしい。
どおりで良く撮れている、亜美はこの遺影を見る度にそう思った。
写真の中の雅彦は白衣に身を包み、厳格な雰囲気を漂わす。
それは亜美と出会う少し前の、雅彦の姿だった。

雅彦の遺品は、幾らかの現金。
そして、痛みを和らげる為の薬が数種類。
たったそれだけだった。

雅彦の死後、亜美がこの部屋を整理していた時、シーツに付着した血痕を見つける。
雅彦がもがき苦しんでいたその痕跡。
約一ヶ月、同じ屋根の下で暮らしていながら、どうして気づいてやれなかったのだろうと、亜美は後悔を滲ませた。

雅彦がこの部屋で過ごしたのは、ほんのひと月あまり。
しかし、それが無駄だったとは思わない。
この部屋で肌を重ねたあの夜は、雅彦の病状を思えば奇跡だったのかもしれない。
そしてその奇跡は、今もこの子宮で息づいているのだと、亜美はそう信じている。

あの時、あとほんの少し警官が来るのが遅ければ、亜美はもうこの世に居なかっただろう。
自分自身はおろか、腹の中の生命も道ずれにするところだった。
それならそれで幸せだったのかもしれない。
しかし、それでも亜美はこうして今日を生きている。

またもや生かされてしまった、と亜美は思う。
そこに意味があるのかは分からない。
いや、意味を求めること自体がナンセンスなのかもしれない。

しかし、生きている以上は何かに期待してしまう。
そこに意味があると信じたくなるのが、ヒトの性だ。

それすら失くした時、人は生きることを諦めてしまうのだろう。

どう生きるのか、ということより、如何に生かされているのか、ということ。
雅彦の死に触れ、亜美はより一層強く、そう考えるようになった。

(お父様……私もいつか……そちらへ行きます)



亜美はその後、再び2階へ上がると、慎二の部屋をノックした。

「…慎二さん?失礼します…」
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