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セイドレイ【完結】
第54章 最終章:夢のあと
土曜の深夜0時。
1人の男が車に乗り、とある場所へ向かっていた。

『月島楓のぉ~ミッドナイトテラー!のお時間がやって参りました。パーソナリティを務めるのはこの私、三流ノンフィクション作家の月島楓が、土曜深夜の語り部として、皆様に眠らない夜の世界をお届けして参ります。では、早速最初のコーナー…』

FMラジオから聴こえてくるその声は、先日、一般女性と同性パートナーシップ制度を結んだノンフィクション作家、月島楓。
歯に衣着せぬ物言いで何かと話題になる彼女だが、その飾らなさやあけすけな性格が一周回ってウケ始め、一時は激減していたメディア露出が最近また増え始めている。
彼女の性質を考えると、特にラジオという媒体は相性が良いらしく、作家ならではの番組構成や、リスナーからの相談を親身に、そして時に辛辣に切り捨てて行くスタイルが支持を得ていた。

男はそんな楓の声を聴き流しながら、深夜の国道をひた走る。

「(けっ…美人作家さんには俺の苦しみなんて分かるもんかよ…)」

たまたまラジオから流れただけの楓に対し、そんな卑屈なボヤきをしてしまうこの40代の男は、先日会社をクビになったばかり。
その理由は、若い女性社員からセクハラで訴えを起こされ、自主退職を促されたからだ。
懲戒解雇にならなかっただけ有難いと思うべきなのだが、それを考えられる脳ミソならばそもそも訴えられていないだろう。
最も、本人にセクハラをしたという自覚は無い。
メッセージで何度か交際を申し込んだだけ、相手も満更では無いと思っていた、という、女性にとっては害悪でしかない典型的なセクハラ男だった。

シートベルトが腹に食い込むこのメタボ中年は、職を失ったことで苛立ちの真っ只中に居た。
このムシャクシャした感情を風俗で発散しようと思うも、競艇でかなりの金額をスってしまい、そんな金も無い。
世の中の自分以外の存在が全て恨めしい。
そんな自己中心的な衝動に取り憑かれそうになった時、ふと目にしたネット上の書き込みが、今夜この男をとある場所へと向かわせている。

車を走らせながらも、男はまだ半信半疑だった。
そんな美味い話が、果たして転がっているものなのだろうか、と。

それでも、この男にとってそれは唯一、このやり場のない怒りの矛先にはうってつけのものに思えた。

そう信じて、この闇夜の中、目的地へと急ぐのだった。
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