この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
セイドレイ【完結】
第54章 最終章:夢のあと
『……さぁ、そんなわけでね。今宵もお送りして参りました月島楓のミッドナイトテラーですけども、そろそろお別れのお時間、ということで…はい。今夜もお付き合いくださった皆さん、ありがとうございました。……今日お休みだった方、ゆっくりできましたか?お仕事だった方は、お疲れ様でした。今日幸せだった方は、それが明日も続きますよう。不幸だった方は、それが今日で終わりますよう。男にも女にも、善人にも悪人にも、みんなに平等に訪れる土曜深夜の語り部、月島楓のミッドナイトテラー。本日はこれにて』
こうして土曜日の夜は更けていった。
朝になれば、またいつもの日常に戻る。
朝食が並んだ食卓を家族で囲む、ごくありふれた風景。
「ママ、お醤油」
「…健一さん?そうじゃなくて?」
「あ……ごめん。ママ、お醤油取ってください」
「…はい。よくできました」
「ママー!しょうゆー!」
「…こーら!朝日?ママは醤油じゃありませーん。もぉ、そういうとこだけすぐパパの真似する…」
「ママ、しょうゆいやなの?」
「陽気…そういうことじゃなくて…あ、ほらちゃんとお茶碗持って?」
「…そういやママ…今日午後から用事あるんだっけ?」
「あ、はい…。私、ボランティアを始めようと思って。また児童支援施設なんですけど…ほら私、仕事辞めちゃって…でも今妊娠中で働くのは無理だから…そしたら、この子達の同級生の親御さんからそんなお話をいただいて。それで今日はそのお話を伺いに…」
「そっか。いいじゃん!ママには向いてそうだし。ママがやりたいことなら応援するよ」
「…ありがとう。あ、おかわりします?」
「あ、うん…」
ボランティア。
そう聞いて健一は、妙に納得したのだった。
一度覚醒してしまった亜美の奉仕の精神は、もう止まらない。
恐らく、今は誰かに何かを与えたくて仕方がないのだろう。
土曜の深夜、あの公衆便所で行っていることも、本質的にはその衝動からなるものであり、それこそが亜美の行動原理なのだ。
…あれをボランティアと言うには、あまりに倒錯しているが。
自らを顧みぬ行き過ぎた慈愛は、ある種の自殺衝動とも取れる。
しかしそれが亜美にとって、過去と現在、そして未来を繋ぐ唯一の術なのだとしたら…もはやそれを止められる者は居ないのだった。
こうして土曜日の夜は更けていった。
朝になれば、またいつもの日常に戻る。
朝食が並んだ食卓を家族で囲む、ごくありふれた風景。
「ママ、お醤油」
「…健一さん?そうじゃなくて?」
「あ……ごめん。ママ、お醤油取ってください」
「…はい。よくできました」
「ママー!しょうゆー!」
「…こーら!朝日?ママは醤油じゃありませーん。もぉ、そういうとこだけすぐパパの真似する…」
「ママ、しょうゆいやなの?」
「陽気…そういうことじゃなくて…あ、ほらちゃんとお茶碗持って?」
「…そういやママ…今日午後から用事あるんだっけ?」
「あ、はい…。私、ボランティアを始めようと思って。また児童支援施設なんですけど…ほら私、仕事辞めちゃって…でも今妊娠中で働くのは無理だから…そしたら、この子達の同級生の親御さんからそんなお話をいただいて。それで今日はそのお話を伺いに…」
「そっか。いいじゃん!ママには向いてそうだし。ママがやりたいことなら応援するよ」
「…ありがとう。あ、おかわりします?」
「あ、うん…」
ボランティア。
そう聞いて健一は、妙に納得したのだった。
一度覚醒してしまった亜美の奉仕の精神は、もう止まらない。
恐らく、今は誰かに何かを与えたくて仕方がないのだろう。
土曜の深夜、あの公衆便所で行っていることも、本質的にはその衝動からなるものであり、それこそが亜美の行動原理なのだ。
…あれをボランティアと言うには、あまりに倒錯しているが。
自らを顧みぬ行き過ぎた慈愛は、ある種の自殺衝動とも取れる。
しかしそれが亜美にとって、過去と現在、そして未来を繋ぐ唯一の術なのだとしたら…もはやそれを止められる者は居ないのだった。