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セイドレイ【完結】
第54章 最終章:夢のあと
そしていよいよ撮影はスタートする。
談笑を交えながらも手際よく進行するカメラマンやスタッフに、亜美は感心しきりだった。
亜美は最初こそ少し緊張していたものの、それも程なくしてほぐれた。
(素敵なお仕事があるんだな…)
誰かのハレの日に花を添え、彩る。
その職業に、亜美はまだまだ自分の知らない世界がたくさんあるのだと感慨に耽る。
もちろん彼らとて、対価として賃金を受け取り仕事をするプロであり、そこには人知れぬ苦労が山のようにあるだろう。
ふと、亜美は雅彦の言葉を思い出す。
『患者さんに唯一おめでとう、と言ってあげられるのは産科医だけかな』
これは、亜美が初めて武田家へ向かう道中、車内で雅彦が言った言葉だ。
その頃、亡き父の思いを継ぎ将来医師になることを志していた亜美は、雅彦のその言葉に感銘を受け、尊さを感じたものだ。
あんなことになる直前の、雅彦との数少ない思い出。
自分を窮地から救い出してくれたその男の言葉を胸に、期待と不安を乗せた車は新しい安住の地を目指して真っ直ぐな道を走っていた。
…はずだった。
(でも…もう泣かなくていいのよ。昔の私。今までありがとう。あなたが居てくれたから、私はこうして生きているーー)
穢れを知る前の、真っ白な自分。
それはまるで、身に纏うこの純白のウエディングドレスのように無垢であったと、亜美は過去の自分に思いを馳せる。
今の自分には似つかわしくない装いであることは重々承知である。
でも、もういいのだ。
シャッター音とフラッシュを浴びる中、亜美は隣で寄り添う健一に小さな声でそっと呟く。
「…男の子でした」
「えっ…!?」
「この前の検診で分かったの。この子のお股のところにね、ちっちゃいけどちゃんと写ってた」
「そ、そっか…男の子…か。また俺のライバルが増えちゃうんだな…」
「…あれ、女の子が良かった?」
「違うよ…ただ、ちょっとヤキモチ妬いちゃうかも…」
「…うふふ。うちには大きな赤ちゃんがいますもんね?」
「や、やめてよ…今そんなこと言われたら…ヤバいよぉ…」
「はーい。お家に帰るまでガマンね」
「ねぇママ…」
「なぁに?」
「だいすき…」
「知ってます」
「マ、ママは…?」
「内緒」
「そんなぁ…」
「それも帰ってからね。はい、ちゃんと前見て?」
「はーい………」
談笑を交えながらも手際よく進行するカメラマンやスタッフに、亜美は感心しきりだった。
亜美は最初こそ少し緊張していたものの、それも程なくしてほぐれた。
(素敵なお仕事があるんだな…)
誰かのハレの日に花を添え、彩る。
その職業に、亜美はまだまだ自分の知らない世界がたくさんあるのだと感慨に耽る。
もちろん彼らとて、対価として賃金を受け取り仕事をするプロであり、そこには人知れぬ苦労が山のようにあるだろう。
ふと、亜美は雅彦の言葉を思い出す。
『患者さんに唯一おめでとう、と言ってあげられるのは産科医だけかな』
これは、亜美が初めて武田家へ向かう道中、車内で雅彦が言った言葉だ。
その頃、亡き父の思いを継ぎ将来医師になることを志していた亜美は、雅彦のその言葉に感銘を受け、尊さを感じたものだ。
あんなことになる直前の、雅彦との数少ない思い出。
自分を窮地から救い出してくれたその男の言葉を胸に、期待と不安を乗せた車は新しい安住の地を目指して真っ直ぐな道を走っていた。
…はずだった。
(でも…もう泣かなくていいのよ。昔の私。今までありがとう。あなたが居てくれたから、私はこうして生きているーー)
穢れを知る前の、真っ白な自分。
それはまるで、身に纏うこの純白のウエディングドレスのように無垢であったと、亜美は過去の自分に思いを馳せる。
今の自分には似つかわしくない装いであることは重々承知である。
でも、もういいのだ。
シャッター音とフラッシュを浴びる中、亜美は隣で寄り添う健一に小さな声でそっと呟く。
「…男の子でした」
「えっ…!?」
「この前の検診で分かったの。この子のお股のところにね、ちっちゃいけどちゃんと写ってた」
「そ、そっか…男の子…か。また俺のライバルが増えちゃうんだな…」
「…あれ、女の子が良かった?」
「違うよ…ただ、ちょっとヤキモチ妬いちゃうかも…」
「…うふふ。うちには大きな赤ちゃんがいますもんね?」
「や、やめてよ…今そんなこと言われたら…ヤバいよぉ…」
「はーい。お家に帰るまでガマンね」
「ねぇママ…」
「なぁに?」
「だいすき…」
「知ってます」
「マ、ママは…?」
「内緒」
「そんなぁ…」
「それも帰ってからね。はい、ちゃんと前見て?」
「はーい………」