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第10章 激しい嫉妬

人が溢れた土曜日の夕暮れ時の街を、理志は少し面倒な気持ちで歩いていた。

グレーのアンクルスラックスに白の薄手のニット。それから黒の質の良いマウンテンパーカー。
髪は結ばずそのままだが、風が強くて鬱陶しく結んできたら良かったと思った。
基本眼鏡は仕事のある日しかかけないが、今日は芙実の家に泊まるので眼鏡をかけてきた。
芙実ほど目は悪くない。裸眼でも最低限の生活はできる。

今から吉祥寺で芙実と友人の西野と西野の彼女のミキと食事をする予定だ。

ミキは大学時代の友人だ。理志と西野と同じ軽音サークルの仲間で、ミキはスカバンドに所属しトランペットを吹いていた。
映像クリエイターをしていて、先月大きめの賞を取ったので、芙実の紹介とお祝いを兼ねて４人で食事をすることになった。
といっても、普通に居酒屋で集まるだけで、かしこまったものではない。

先に芙実と待ち合わせてミキに祝いの品を何か買うことになっているが、いつも自分より先に来る芙実がまだ来ていない。時計を見ると、約束の時間まであと１０分ある。

理志は改札前の大きな柱に寄りかかって芙実を待った。

きっと今頃急いでこちらに向かっているに違いない芙実を想像して内心微笑む。

芙実の最初の印象は、静かで、真面目で、目立たない女性・・・・・・。その程度だった。仕事が出来るのは知っていたが、派遣社員だったし、飲み会にも参加しないので、特に気に留める存在ではなかった。

理志はここ二年の間、彼女がいなかった。重要な仕事を任されるようになって充実していたから、特別欲しいと思ってこなかった。誘われることも告白されることもあったが、どうも面倒で断ってきた。仕事で急に会えなくなった場合のフォローや、もっというとセックスするのも面倒だと思うほどだった。

要は、付き合いたいと思える相手がいなかったということだ。

それが・・・・・・・・。

ライブハウスで芙実に会った時のことを思い出す。

いつも野暮ったいカーディガンで隠れていた、細く白い二の腕や、細い腰とアンバランスにさえ感じる大きな胸を見て、印象の違いに心が揺れた。
ライブではしゃいだ後の乱れてほつれたうなじに垂れた髪や、汗でしっとりと濡れた肌が普段の芙実と結びつかなくて混乱するほどだった。