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我が運命は君の手にあり
第5章 第五章
菓子折りを受け取った守沢は、奥の給湯室へ入っていった。
「秋津さん、車で送るよ。雨が降ってきた」
「いえ、駅まですぐですから……」
「でも電車を降りたら、雨の中を家まで歩くんでしょ?」
部下に接しているとは思えない気軽さだった。
「あの、今日は祖母の所に行くので遠いですし……」
「じゃあそこまで送るよ。今日は思ったより早くカタがついて暇ができたんだ。婚約パーティーの依頼を受けてね。出来る限り華やかにしてくれとのご要望にきっちりと応えてきた」
屈託のない笑顔だった。少し照れたようなその顔が冴子は苦手だった。憂いのない表情は、恵まれた環境で育った人間だけが持つ明るさだった。
早くに母親を亡くしたと聞いたが、この人は恵まれた環境で生きてこられた。
自分とは全く違う。
「あら、それならちょうどいいじゃない、送ってもらいなさいよ。冴子さんて遠慮し過ぎなのよ。ここへ来てもう半年でしょ? 仕事にも慣れてきたんだから、そろそろ人にも慣れなさい、私みたいに図々しくなれとは言わないけどね、あははは」
五十半ばの守沢は、歯に衣着せぬ物言いではあるが嫌味がなく、ふくよかな体型と柔和な顔で周囲を和ませるのが常だった。
「秋津さん、車で送るよ。雨が降ってきた」
「いえ、駅まですぐですから……」
「でも電車を降りたら、雨の中を家まで歩くんでしょ?」
部下に接しているとは思えない気軽さだった。
「あの、今日は祖母の所に行くので遠いですし……」
「じゃあそこまで送るよ。今日は思ったより早くカタがついて暇ができたんだ。婚約パーティーの依頼を受けてね。出来る限り華やかにしてくれとのご要望にきっちりと応えてきた」
屈託のない笑顔だった。少し照れたようなその顔が冴子は苦手だった。憂いのない表情は、恵まれた環境で育った人間だけが持つ明るさだった。
早くに母親を亡くしたと聞いたが、この人は恵まれた環境で生きてこられた。
自分とは全く違う。
「あら、それならちょうどいいじゃない、送ってもらいなさいよ。冴子さんて遠慮し過ぎなのよ。ここへ来てもう半年でしょ? 仕事にも慣れてきたんだから、そろそろ人にも慣れなさい、私みたいに図々しくなれとは言わないけどね、あははは」
五十半ばの守沢は、歯に衣着せぬ物言いではあるが嫌味がなく、ふくよかな体型と柔和な顔で周囲を和ませるのが常だった。