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第4章 第四章

部屋に戻ると北沢は消えていた。遼は破れたスリッパを蹴散らし、身支度を整えた。

あいつには触れさせない。汚されてたまるか。手練れた男の下心など、奥手な彼女にわかる筈がない。そうだ、あの時の二人の様子からすると、冴子は尻込みした様子でぎこちなく、遠慮がちだった。まだ何もない。それに今、二人の接点はないに等しい。

穢れの無い冴子の白肌に、自分以外の者が触れるのは我慢できない。
心が震え鼓動が高まった。寝顔を想像し、今すぐ笑顔を見たいと思った。自分だけに向けた笑顔を。俺なら彼女を笑顔にできる。そうだ、俺にしかできない。
芽吹いた想いは膨らみ、開花を期待して胸が弾んだ。明日の休みが恨めしかった。だが心を落ち着けるには都合がいい。落ち着け、ここからだ。俺は彼女と毎日会える。

ホテルを出て深夜の街を歩いた。ビルの間に星が瞬き、冷たく澄んだ空気が頭を冷やした。思い切り息を吸い込むと、腹に重く沈んだ闇が、吐く息と共に浄化される気がした。

彼女に認められたい。あとを次ぐ者として、これまで以上に周囲からの信頼を得て力をつけなければならない。
遼は使命感に燃え、力が漲っていた。
彼は天に向かって雄叫びを上げたい衝動を堪え、今宵の街の情景を胸に刻んだ。