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せめて、今夜だけ…
第7章 夜明けのコーヒーを
サラサラで柔らかな髪。
昨夜と同じように魚月の髪は、ふわふわと風に揺れていて、俺はその魚月の柔らかな髪が気に入っていた。

そんは魚月を、間違えるはずなどないのだ。

「待て、魚月…っ」

俺のその声が届いたのか、人混みの中に紛れている女が俺の方を振り向いた。




「―――――う、魚塚さん…?」








人混みの中で、俺はその女と目があった。
それは、間違いなく、魚月だった。







「魚月…っ」








しかし、痛む足では思うように走れない。
そんな俺から逃げるように魚月はバツの悪そうな表情を浮かべると、踵を返しその場から走り去ろうとしている。

「ちょっ、待っ…っ」

この状況に周りの通行人は興味津々といったところか?
それもそうだ。
さっきまで転んでいた男がいきなり立ち上がって女の名前を絶叫しながら走っているのだから。

ある意味ホラーだな。

しかし、今はそんな事どうでもいい。
周りの目や陰口なんて気にならない。
派手に転んだ瞬間を見られてるのだから、それに比べたらどうって事はない。

ただ、奇跡的にも見つけられたら魚月を逃がしたくない…、その事しか頭になかった。



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