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せめて、今夜だけ…
第7章 夜明けのコーヒーを
自分でもとんでもない事を口走ってると思う。
もうすぐ結婚してしまう女に何て事を…。
だけど、どうしてもこの手を離したくなかった。
子供の我が儘みたいだと笑われても、どうしても…。

「頼む…」

女に何かをお願いしたことなんてなかった。
今まで、散々女を見下して来た。
そんなバカな事ばかりしてきた俺は、こんな時に相応しい言葉なんか持ち合わせていなかった。

すると、俺の腕の中で大人しくなっていた魚月が小さな声で話し始めた。


「……ぐすっ、ひっく」
「魚月?」


「私は…、もうすぐ…、け、結婚するんです…」


……わかってる。
そんな事わかってる。
何度も自分に言い聞かせて来た事だ。
今更そんな事、口にしなくたってわかってる。


「わかってる。そんな事…」
「こ、これ以上…、魚塚さんと一緒にいたら…っ、め、迷惑かけちゃうから…」

迷惑ってなんだよ…。
俺の目の前からいなくなられる方が迷惑だ。
寧ろ、怖い。
目の前から魚月がいなくなる事の方が怖い。

「迷惑なんか…」
「もう、迷惑、か、かけたくないから…、お店も辞めて…、あの日も…、さよならも言わずに…、ひっく」

俺の腕の中で泣きじゃくる魚月。
魚月の言葉を聞きながら、俺は胸が締め付けられていた。
魚月の気持ちが伝わって来る。
痛いぐらいにひしひしと伝わって来る。


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