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せめて、今夜だけ…
第8章 甘い痛み
今更魚月の婚約者の事を調べて何になるんだ。
俺は魚月にさよならを言われた立場だし、魚月と付き合ってたわけでもない。
こんな事調べたって仕方ない。

「あ、そういえば、その市原グループの本部の会社はこの近くらしいぞ?」



「――――――――。」




桐谷のその言葉に、一瞬脳裏に嫌な考えが過る。





「まぁ、さすがにうちの会社とは接点はないけど、有名な企業だしな」





……別に、今更魚月の婚約者に用なんかない。
市原の会社がどこにあるのかすら興味はない。
ただ、脳裏に浮かんだ嫌な考えに吐き気がした。















―――――――――。


終業後、俺は電車に乗り自宅とは真逆の方向へと向かっていた。
会社から電車一本、3つ目の駅で降り、しばらく歩いた先にその会社はあった。


「ここか…」

そこには、うちの会社にも引けを取らないぐらいの大きな会社が聳え建っていた。
見上げてるだけで首が痛くなりそうな、太陽に届くんじゃないかと思うぐらいのビル。

終業時間なのか、会社からはぞろぞろと人が出て行く。

なるほど。
魚月や桐谷が言ってた通り、大企業なだけはある。
これだけの大企業なら今更HPを作って宣伝する必要なんかないだろうな。




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