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せめて、今夜だけ…
第8章 甘い痛み
「あ…」
魚月の傍らに立つ男性。
魚月に聞かなくても、魚月の表情を見ればわかる。
高級そうなスーツを着て、魚月の傍らで俺を睨むように見る男。
恐らく、この男が魚月の婚約者―――――――。
眼鏡ごしの瞳は、俺を不審そうに見つめている。
俺と同じぐらいの身長、同じぐらいの年齢。
端整な顔立ちをしているが、その表情には怒りが見え隠れしている。
確かに、自分の妻となる女が怪しい男に話しかけてるんだから無理もないが…。
思わず俺の名前を呼んでしまい「しまった」という顔の魚月。
この後の言い訳に困っているようだ。
「あの…」
「質問に答えなさい。この男性は?」
魚月に詰め寄るその態度。
あの夜、あの公園で見た高圧的な態度と同じだ。
どうやらこの男が魚月の婚約者で間違いない。
その態度に、俺も若干の苛立ちを感じたが…
「失礼。僕は魚月さんの友人です」
俺からの言葉に、魚月は一瞬驚いた様子だが
この場を上手く切り抜けるにはこれしかないと思った。
長年の営業職で培った営業スマイルと口調。
「魚月の?」
「はい。この度は魚月さんがご結婚すると聞いたのでご挨拶にと思いまして」
取ってつけたような笑顔、取ってつけたような関係と会話。
……反吐が出る。