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せめて、今夜だけ…
第8章 甘い痛み
――――――「ふざけんな…っ」
自宅であるマンションに帰った俺は、スーツを脱ぎ捨て鞄を床にぶつけ、そのままベッドに倒れ込んだ。
自分の愚かさに腹が立った。
ストーカーまがいの事までして…、魚月だって驚いたに違いない。
いや、そんな事より何より…。
―『魚月も喜びます』―
婚約者が言ったあの言葉。
「……呼び捨てにしてんじゃねぇよ…っ!」
あの男は、人前で堂々と魚月の事を呼び捨てに出来る。
人前で魚月の肩や手に触れ、一緒に歩く事が出来る。
婚約者なんだから当たり前の事だ。
だが、見たくなかった。
聞きたくなかった…。
俺は魚月の彼氏でもなければ、婚約者でもない。
人前で堂々と魚月を呼び捨てになんて出来ないし、人前で魚月に触れる事さえ出来ない。
俺は、何も出来ない…。
それがこんなにも腹立たしくて悔しい。
ただ一晩、魚月を好き勝手に抱いただけなのに…。
ベッドに倒れ込んだままどれくらいの時間が過ぎただろう。
このままだと嫌な考えに支配されて頭が可笑しくなってしまいそうだ。
だからと言って、何かをする気力も元気もない。
飲みに行く気分でもなければ、誰かと過ごす気分でもない。
っていうか…
魚月以外の女なんか…、もうどうでもいい…。