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せめて、今夜だけ…
第8章 甘い痛み
が、いつまでもベッドに倒れ込んだままというわけにも行かない。
人間、どれだけショックを受けても腹は減る。


「…………。」


ぼんやりと天井を見上げながらそんな事を考えていた。


飯…、どうしようかな…。
自分で作るなんて無理だし、今からコンビニに買い出しに行くのも面倒。
出前でも取るか…。
あー、その前に風呂でも入るかな…。
しばらく貯めてた洗濯もしないとな…。
あ、でも洗剤と柔軟剤、もう切れてたんだっけ…。



必死に魚月以外の事を考えた。
先程の…、魚月の婚約者の記憶を消したくて、ムリヤリ違うことを考えた。
しかし、忘れようとしても忘れられない。
忘れようとすればするほど、婚約者の顔が脳裏にちらつく。
勝ち誇ったかのようなあの笑顔。
それとは裏腹に、困ったような顔の魚月。

忘れたいのに忘れたくない。

「はは…っ」

魚月のあの怯えたような困ったような顔すら愛しいなんて、俺はある意味病気だな。
自分の気持ち悪さに呆れて笑いが込み上げてくる。
「バカじゃないの?」と、今にも魚月の罵声が聞こえてきそうだ。

動かなくちゃいけないのになかなかベッドから起き上がれない。

ショックだったはずなのに、魚月の顔を忘れたくない。



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