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せめて、今夜だけ…
第9章 天使と悪魔
怒る魚月の手を掴むと、そのままベッドに投げつけた。

さっきまで、魚月の幸せを願っていたのに。
心から、魚月の心の平穏を願っていたのに。

「な、何するんですかっ!?」

俺の中の汚い衝動が全身を駆け巡る。
さっきまでの自分が消え失せる。
と、同時に…、考えたくない思いが頭に浮かんでくる。


いや…、わざと考えないようにしていたんだ。


それを考えてしまえば、俺が俺で無くなってしまいそうだったから、わざと目を反らしていた。
しかし、1度顔を出した汚い衝動は、そう簡単には消えてくれそうにない。

「やだ…っ、魚塚さん…」

気づくと、魚月は俺の体の下にいた。
いや、俺が魚月の体に股がっているのだ。
あれ?何だこの体制…。



「ふ、ふざけないで…、退いて…」

怯える魚月の瞳。
その瞳すら可愛くて愛しい。





あの男は…、市原は…
この瞳にいつも移ってるのか…。



この髪に触れて、この体に触れて、この唇に触れて、この手や足や胸や腰や背中に触れてるのか?
この声を聞いて、この声で名前を呼ばれて、この声で愛の言葉を囁かれて…
人前で魚月の名前を呼んで、隣を歩き、腕を組んで、同じ時間を過ごしている。
この笑顔も、泣き顔も、怒った顔も、困った顔も、全部、全部、全部全部全部全部全部全部全部…っ!


あの男のもの…っ!










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