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せめて、今夜だけ…
第2章 欲心
その後、追加のシャンパンや料理を注文。
それらを突っつきながらお互いの趣味や休日の過ごし方など、無難な話が続いていた。
俺もなるべく、その場の空気を読んで話を合わせていたが
何の変哲もない他愛ない会話でも、どうしても邪推してしまう。
俺達のプライベートを聞き出し、値踏みしてるのではないかと。
まぁ、当たらずとも遠からずというところだろう。

にこにこと愛想笑いを浮かべ、適当な会話をしながらも、俺の心は冷えきっていた。
というより、あまりにもつまらなさすぎて帰りたくなったと言う方が正しいだろう。

料理も酒も美味いが、まるで狐と狸の化かし合いだ。

俺はプライベートまで見せたくないから取ってつけたような会話しかしてない。
向こうは、何としてでも懐に入り込もうとしている。
こんな空気で料理をしても楽しいはずがない。
心此処に在らず。
さっさと帰って口直しの酒が飲みたい。

こんな合コンでも、桐谷と田中は楽しげに女と盛り上がっている。
恐らくこいつらは慣れてるんだろうな。
やっぱり、俺にはこういう席は似合わない。
誰かに合わすのも、にこにこと笑顔を浮かべ続けるのも苦手だ。
桐谷や田中みたいに話術があるわけでもないのだから。

「魚塚さ~ん、何怖い顔してるんですか~?」
「え?あぁ…」

気づくと、俺の隣にはいつの間にか女が座っていた。
いきなり聞こえた女の声に驚きつつも顔を上げると…


「あれ?桐谷は?」

さっきまで、俺の隣には桐谷が座っていたはずなんだが。

「え~、今席変えしたところですよ~?魚塚さん、ずーっとボーッとしてたから~」
「あ、あぁ、そうでしたか?」

あー、ヤバい。
考え込み過ぎて全然周りを見てなかったし、話も聞いてなかった。


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