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せめて、今夜だけ…
第2章 欲心
つーか、いつの間に席変えなんかしたんだ?

「アヤカでーす。よろしくお願いします~」
「あ、あぁ。よろしく」

おいおい、こんなツーショットなんて聞いてねぇぞと桐谷と田中に目をやったが…

「へぇ~、ユリちゃんってスイーツ巡りが趣味なんだ~。今度一緒に行こうよ~」
「あ、俺も映画見るの好きなんだ!良かったら今度一緒に映画でも…」

二人とも女に夢中で俺の事なんか眼中にないようだった。
趣味の話で盛り上がって、何とか口説こうと目をギラつかせて、鼻の下を延ばしてデレデレして…、見てらんねぇよ。
我が同僚ながら情けないと思いつつシャンパンを傾けた。

「………で、そういう訳なんですよ~。どう思います?魚塚さ~ん」
「えっ?」

桐谷達を横目に呆れている俺の視界にムリヤリ入ってきた女。
どうやら俺に話しかけて来てるようだが…。

「え?あぁ、ごめん。何の話だった?」
「んもう~、ちゃんと聞いてて下さいよ~」

猫なで声で甘えるような口調のこの女。
妙に甲高い声が逆に気持ち悪い。

「アヤカね、半年前に彼氏と別れて以来、ぜーんぜん男っけがなくて~、本当マジで男運0なんです~」

あぁ、そうですか…。
あからさまなブリッコだな、この女は。
この女の男運なんてどうでもいいが…

「それは、世の中の男性は見る目がないですね」
「魚塚さんに言われたらマジで嬉しい~」

俺は普段、女にこんなお世辞なんて吐かないが、同じ会社の女となれば別だ。
ここで嫌な空気になれば桐谷達に悪いし、会社内で悪評が立っても困る。
長年の営業で培ったお世辞のテクニックをフル活用するしかない。

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