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せめて、今夜だけ…
第10章 溺れる魚達
社長室へ向かう俺の足は、迷いや恐怖なんて微塵も感じてはいなかった。
逆に魚月への想いが加速するかのように早くなって行く。
それと同時に俺の心臓の鼓動も早くなって行く。
それは…、少しの恐怖からか、開き直った鼓動なのか。
自分でもよくわからない。
頭の中はぐちゃぐちゃだ。
胸の中も頭の中も、燃えるように熱い。
ただ、タチの悪いことに…、こんなにワクワクするのは産まれて初めてかも知れないな。







社長室の前へに到着。
いつもは何も思わなかったが、改めて前にすると、社長室のドアの大きさに圧倒されてしまう。

市原グループの人間はもう来てるのだろうか?
ドアを開けた瞬間、ぶん殴られるかも知れねぇな。
それも仕方のないことだ。

「ふぅー…」

大きく深呼吸をし、罰を受ける覚悟を整えて






――――――――コン,コン…。


丁寧に社長室のドアをノックした。
今にも心臓が口から飛び出そうだ。


「失礼します…」


ゆっくりと社長室のドアを開ける。
ドアがゆっくりと動き、中の様子がゆっくりと見えだす。
それはまるでスローモーションのように。

「あぁ、魚塚君」

中には、来客を迎えるソファーとテーブル。
そのソファーに腰かける高級そうなスーツを身に纏った穏やかな雰囲気の初老の男性。
これがうちの会社の社長だ。
そして、社長の隣には部長が座っている。

そして、見慣れないもう1人の女…。

「お呼びでしょうか?」


何事もなかったかのように、部長にそう尋ねた。
ここでじたばたしても仕方ないとわかっている。
バレたらバレたで全てを無くす覚悟は出来ているのだから。

「まぁ、中に入りなさい」
「はい」

ゆっくりと広い社長室の中へと足を進めた。
こうして見るとデカい社長室だな。
装飾品もブランドでかためられている。
さすが、Bijouxの社長なだけはある。

中へと足を進ませながら、俺はその場にいる女が気になっていた。

この女、一体誰だ?




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