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せめて、今夜だけ…
第10章 溺れる魚達
もしかして、代理の弁護士か?
いや、婚約者に手を出したのだからわざわざ代理の弁護士なんか寄越すはずがない。
まずは市原社長、もしくは御曹司が来るはずだ。
ならこの女は?
市原グループとは関係のない女か?

ショートヘアーに、白いスーツ姿のこの女…。

「わざわざ呼び出してすまないね」
「いえ…」

社長と部長のそばに歩み寄ったが、どうも様子が可笑しい。
社長も部長も晴れやかな顔をしている。
とてもじゃないが、部下の不祥事を謝罪するような態度ではない。

「あの…、ご用件は?」

まさか、俺を安心させる為の演技か?
いや、社長や部長がそんな小細工をするようには思えない。
なら、一体何故俺を呼び出したのか?

「あぁ、君を呼び出したのは他でもない」

すると、テーブルを挟みながら社長と部長の前に座っていた女がスクッと立ち上がり俺に深々と頭を下げて来たのだ。

「私、市原社長の秘書をしております。安西と申します」




市原、社長の秘書…?
あぁ、じゃあこの女は市原グループの関係者で間違いないようだ。
社長の秘書というからには、やはり魚月関係の事だろう。

「初めまして。魚塚です」

魚月との事がバレて、秘書を通して俺を社会的に抹殺しに来たのだろう。
逃げも隠れもしないさ。
煮るなり焼くなり、好きにすればいい。



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