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せめて、今夜だけ…
第10章 溺れる魚達
俺の名刺には名前と電話番号ぐらいしか書いてなかったのに、よくこんな平社員を同席なんてさせたな、この女。

「それに、魚塚さんとは初対面じゃありませんし」

ニコリと不敵な笑みを浮かべた女。

「え…?」



は?初対面じゃない?

「ん?何だ魚塚君、知り合いだったのかね?」

女の言葉に社長と部長が驚いたように俺を見た。
が、しかし、俺はこんな女に覚えはない。

「いえ、そんなはずは…」

冗談じゃねぇ。
俺は市原グループなんて大企業に知り合いなんていねぇ。
もしかして、やっぱり過去に関係を持った女なのか?

女の顔をもう1度見てみるが…、どこかで見たことのあるような無いような…。
早く思い出さねぇと、社長と部長に怪しまれてしまう。
しかし、思い出そうと必死になればなるほど記憶は混乱して行く。
記憶を辿りながら過去の女の顔を思い出そうとするが、今までろくに女の顔なんて見てなかったせいでなかなか思い出せない。


すると


「まだ思い出さないの?魚塚君」






魚塚君…?
その声を聞いてハッとした。
その声には聞き覚えがあった。






俺の、遠い過去が甦る。
それは、何度も何度も忘れようとして忘れられなかった懐かしい記憶と胸の痛み。




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