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せめて、今夜だけ…
第10章 溺れる魚達
「彼女とか、結婚とか」
「あ、あぁ…」

先輩と別れてから女を食いまくったなんてとても言えねぇな。
それに、結婚はおろか彼女だって…

「仕事が忙しいもので、まだ…」

ぎこちない愛想笑いを作った。
結婚だの彼女だの、そんなものを意識したことなんかはない。
最近までは…。

「へぇ。勿体ない。そんなにかっこいいのに」
「どうも」

先輩は昔から男を褒めるのが上手かった。
褒めていい気分にさせて…、それで勘違いする男が出てくるんだよなー…。
先輩は無意識なのか?それとも小悪魔なのか。
俺も、この先輩の口調と美しさにやられた1人だが。

「先輩は、今は…」
「離婚してからずっと1人よ。今は仕事が楽しいし、自分より仕事も給料も上の女は嫌だって男性からは煙たがられてるし」

社長秘書って、そんなに給料がいいのか…?
あんなに男性に人気だった先輩が独り身なんて意外だな。
まぁ、煙たがる男の気持ちもわからなくはない。

「本当はね、たまに思うことがあるの」
「何をです?」
「あの時、魚塚君と別れてなかったら、どうなってたんだろうって…」





―――――――――っ…。





先輩と、別れてなかったら…?









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