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せめて、今夜だけ…
第10章 溺れる魚達
どうする…?
魚月との関係を先輩に言うわけにはいかない。
隠し通さなきゃいけない。

「ちょっとした縁で…、知り合ったんです…」
「ふーん」

もし、この話が上手く行けば、これからこうやっていくつもの嘘を重ねて行かなくてはならない。
自分で決めた事なのに、先輩の顔がちゃんと見られない。

「翔太さんね、もうすぐ結婚するみたい」




――――――――ドクンッ…


その話題に、俺の心臓が激しく鼓動を繰り返す。

「へぇ、そうなんですか…。お相手はどんな人なんですか?」

わざとらしく話を合わせる。
本当は、誰よりもその結婚相手の事は知っている。

「相手の事は詳しく知らないけど、息子の翔太さんはハンサムだし優しいし、相手の女性はラッキーよね」

ハンサム?優しい?
ハッキリとは覚えてないが、顔立ちは整ってはいたような気がする。
お世辞にも優しいとは言い難い性格だが…、周りの人間の前では猫を被ってるのか。

「市原グループの御曹司だもの。幸せが約束されたも同然よ」
「そ、ですね…」

怪しまれないように話を合わせたが、今はそれを激しく後悔している。
耳を塞ぎたい…、聞きたくない…。
立ち眩みで吐きそうだ。




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