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せめて、今夜だけ…
第10章 溺れる魚達
「多分、今夜なら翔太さんも空いてると思うし」
「こ、今夜っ?」
「あら?何か不都合でも?」
「あ、いえ…、そういうわけじゃ」

鞄からスマホを出した風間先輩が、誰かに電話をかけようとしている。
それは、市原社長になのか御曹司の市原翔太になのか。
とにかく、今夜なんていきなり過ぎる。
こっちは心の準備すら出来てないと言うのに。

「社長は忙しい人だからなかなかアポが取れないんだけど、翔太さんは時期社長だし魚塚君とも顔見知りみたいだし、先に翔太さんと仕事の話しを進めましょ。社長も許してくれると思うわ」

でも…
でも、仕事の話を含んだ食事会なら…
それなら堂々と魚月に会えるかも知れない。
仕事の為の顔合わせという大義名分がある。

「早速アポ取ってみるわね」

嬉々とした表情で風間先輩はスマホを操作し誰かに電話をかけている。
俺はそんな風間先輩を見ながら魚月の事を考えていた。



昨夜、魚月にあんな乱暴を働いてしまった。
魚月を泣かせてしまった。
昨日の今日で魚月とどんな顔をして会えばいいんだろう。
その前に、俺が同席している食事会に魚月は来てくれるのだろうか。

婚約者との仕事なんかどうでもいい。
会社の事を思えば仕事の話しを進めたいが、今は仕事の話しなんかどうでもいい。
ただ、魚月に会いたい。

昨夜、ムリヤリとは言え魚月に触れたところだが…、もうこんなに会いたい。

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