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せめて、今夜だけ…
第12章 蛹、羽化の時
「それは…」


魚月が…、好きだから…。
どんな手段を使ってでも魚月のそばにいたいから。


ただ、この台詞を言えば魚月が困る。
婚約している魚月にこんな事を言えば魚月を苦しめる事になる。
魚月を…、俺の気持ちで板挟みになんかしたくない。
だから…、こんな強引な手を使うしかなかった。
蔑まれても、嫌われても、軽蔑されても…。

「…………っ!」

本当は言いたい…。
心臓が壊れるぐらいに魚月が好きだと、そう言いたいのに。

しかし、何も言えないでいる俺の気持ちを余所に魚月の口から出た言葉は―――――――






「う、魚塚さんには…、あ、安西さんが…」











―――――――は?
安西…?
安西って、風間先輩の事か…?






魚月の口から出たのは風間先輩の名前。
でも、何故魚月の口から風間先輩の名前が?
しかも今、この現状で…。

いきなり風間先輩の名前を出され訳がわからないでいる俺に魚月は更に続けた。

「あんな素敵な人が…、い、いるのに…、何で私を…」

感覚が戻って来たのか先程よりかはハッキリと聞きやすい声になって行く。
ただ、その台詞は俺に取っては聞きたくないものだった。



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