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せめて、今夜だけ…
第12章 蛹、羽化の時
「魚月…っ」

今はただ、魚月だけを感じていたい。
魚月も今だけは、俺の事を見て欲しい。
翔太じゃなくて、俺に抱かれてるんだと自覚して欲しい。
けど、俺だとハッキリ認識したら、また罵倒されるのだろう。
あの可愛い声と顔で。

「なつ―――――――」


夢中で魚月の中を掻き回していると、不意に俺の体の下にいる魚月の両手が伸びて来た。

「…おい」
「はっ、あぁぁ…っ」

魚月の両手が俺の頬に触れると、そのまま俺の顔を自分の方へと引き寄せて行く。




「――――――っ!」




うっすらと開いた魚月の瞳。
オニキスのような真っ黒な瞳が涙で滲んでいて
今にも蕩けそうなその瞳に見つめられると、抵抗も出来ず無意識のうちに引き寄せられてしまう。

そのま、魚月の唇が深く深く…
俺の口内を荒らすかのように魚月の舌と唇が重なって来る。

「んっ、ぅ…」
「んぅ、はぁ、んっ」




口づけの合間に、魚月の熱い吐息が鼻先にあたってくすぐったい。



今まで、行為の最中にキスを求められた事は何度もある。
だが、その度にキスは避けてきた。
最中にキスなんて、恋人同士のするもんだし、俺の心まで求めて欲しくなかった。
女と深い関係になんてなりたくなかった。
女だけじゃなく、誰かと深く関わるなんて嫌だった。



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