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せめて、今夜だけ…
第13章 明けの明星、宵の明星
雨の香りを感じる度に、ついこの間の事なのに、まるで大昔かのように懐かしい気分になってしまう。

「私は好きですよ。…雨」
「へぇ…」

雨が好きなんて変わったやつだな。

「雨の音。水の滴る音を聞いてると落ち着きます…」

朝、窓の外からシトシトと雨音が聞こえたら、俺なら気分が滅入っちまう。
雨で服やスーツが濡れるから通勤するのも嫌になるよ。
なのに、魚月はその音が好きらしい。
俺は魚月が何故こんな話しをするのかわからなかった。
ただ単に、俺との沈黙が気まずかったのか
それとも、快楽のせいでまだ朦朧としてるのか。



俺への憎しみで心が崩壊してしまったのか…。



「水の音が好きなんて、本当に魚みたいな奴だな」
「それを言うなら、魚塚さんだって…」
「え?あぁ…」

俺の名前にも"魚"の文字が入ってる。
魚月と初めて会ったときも、お互いの名前の中に魚があると、そんな会話をしたことを思い出した。

あの頃は、こんなに深く魚月を求めてしまうなんて思ってなかった。
生意気な女としか思ってなかったし、出来るなら関わりたくないとさえ思っていた。
なのに、今はこうしてこの女と一緒にいる。
まぁ、俺が脅迫して一緒にいるようなもんだけど。
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