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せめて、今夜だけ…
第13章 明けの明星、宵の明星
俺と一緒にホテルから出てくるところを誰かに見られでもしたら…、そんな焦りが魚月を急かしていた。

「おい…っ」
「……やっ!」

俺から逃げようとする魚月の腕を咄嗟に掴み引き止めてしまった。
驚いた魚月が俺の腕を振り払おうとするが…。

「いつ降り出すかわかんねぇし、せめてタクシーでも拾え」

冷静を装いながら最もらしいことを言うが、本当は魚月と離れたくない。
バレたら魚月が困るとわかってても、魚月の腕を離したくなかった。
無意識のうちに魚月を捕まえてしまう辺り、俺も相当に狂ってしまってるなと実感する。
それに、この手を離せば、魚月は翔太の元へ帰ってしまう。

「け、結構です…」
「うちの会社の近くに住んでるって言ってたよな?だったら」

俺と一緒にタクシーに乗るわけにはいかないが、せめて魚月だけでもタクシーに乗せて帰してやりたい。

「本当に大丈夫ですからっ!」

―――――――っ!!

荒々しい口調で声を張り上げて、俺の腕を振りほどいた。
その様子に、さすがにこれ以上は引き止められないと判断。

「嫌われたもんだな…。ま、当たり前か…」

俺の方を一切見ずに俯いたまま。
こんな男とは目も合わせたくないんだろう。



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