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せめて、今夜だけ…
第13章 明けの明星、宵の明星
「あ、歩いて帰れますし…、タクシーぐらいなら自分で拾えます…」

歩いて帰れない事もない距離だが、俺が心配してるのは雨だ。
いくら雨が好きと言ってもびしょ濡れにはなりたくないだろう。
何より、ついさっきシャワーを浴びて体も暖まったというのに。

「強情な女だな」
「……失礼しますっ!」

「おい――――――っ!!」



俺に背中を向けると、一目散に明け方の街中へと走り去ってしまった。
後を追いかけたくても、追いかけるわけにはいかなかった。
誰かに目撃されたら魚月が困るし、何より今はBijouxと市原グループの契約もかかってるんだ。
魚月との関係がバレたらその話しも白紙に戻されてしまい兼ねない。

「くそ…っ」





正直に告白すれば…
契約なんか知らねぇ…、会社や仕事なんて知るかよ…。


ただ、今回の話しは俺個人の問題じゃない。
会社と会社、市原グループとBijouxの問題。
ここで俺が下手をすれば、今回のプロジェクトに関わるであろう多大な人数の社員に迷惑をかけてしまう。

「―――――っ!!」

思い通りにならない苛立ちが頭の中でぐるぐると巡っている。

いっその事、何もかも捨ててしまえたら楽になれるのに。
仕事の事も、会社の事も、魚月以外のものを全部投げ出せてしまえたら楽になれるのに。






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