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せめて、今夜だけ…
第13章 明けの明星、宵の明星
鈍色の空。
遠くの方からはゴロゴロと雷の音がしてる。
マジで急いで帰らねぇと本格的に降られてしまう。

俺は足早に歩き出し、何とかタクシーを捕まえて帰路に着いた。

とりあえず今から帰って少し仮眠でも摂るか。
睡眠不足はいつもの事だし慣れてるから辛くはない。
シャワーはホテルで浴びたから必要はない。

「はぁ…」

魚月を抱いたらいつもこうなる。
体の中の微熱がなかなか引かない。
何もかもがどうでも良くなる。
仕事の事も、契約の事も。

タクシーの後部座席で顔を覆いながら、何故かわからないがため息を止められないでいると…。

「お客さん、体調悪そうですよ?もしかして、飲み過ぎですか?」
「え?」

俺より少し年上ぐらいのタクシーの運転手がルームミラーでチラチラと俺の顔を確認していた。
あぁ、泥酔してるのかと心配してくれてるのか。
飲み過ぎて朝帰りをしたのかと勘違いされてるようだな。

「いえ、何でもありません…」
「そうですか?」

体調が悪いのはハズレてはいないが…。

魚月を抱いた幸福感。
その次に訪れる強烈な虚しさと寂しさ。
その寂しさにやられてしまいそうになる。
今日は特に…。

「そう言えば、今日は1日雨になるみたいですよ。嫌な空模様ですよね」

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