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せめて、今夜だけ…
第13章 明けの明星、宵の明星
俺が風邪で寝込んでると思って看病しに来てくれたのだ。
なのに俺は、しつこい訪問販売だと思って追い返そうと怒鳴り付けてしまった。
失礼にも程がある。
忙しい中看病に来てくれた先輩に向かって…。

「先輩、仕事は?」
「今日は社長は朝から外回りでいないの。時間には融通効くから」
「そうですか。わざわざありがとうございます…」

風間先輩が来てくれて安心したのか、さっきまでの倦怠感や孤独感が和らいで行く。
キッチンからは旨そうな香りが漂って来る。
食欲なんかないのに、いい香り。
いつもコンビニ弁当ばっかりだったから、こういう香りを嗅ぐとホッとする。

「……いい香り、ですね」
「あー、雑炊作ってるの。こう見えても元主婦だし毎日料理は作ってたし」
「流石ですね」
「料理出来ないと思ってた?」
「あ、いえ…、そういう訳じゃ…」

風間先輩が主婦になり毎日料理を作っていた、か。
想像出来ないけど、先輩になら似合いそうだ。
俺の知らないところで時間は過ぎて行くのだと改めて実感する。
俺の中の時間だけが止まっていたのだ。

まさか、あの先輩が俺の部屋のキッチンで料理を作ってくれている。
まるで合成写真のようなその光景…。
現実味がない。
俺をあっさりとフッた先輩が…。

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