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せめて、今夜だけ…
第13章 明けの明星、宵の明星
「あ、あの…、先輩っ!風邪が移りますよ…っ」

「もう"先輩"なんて呼ばないでっ!」
「………っ!?」

風邪が移るとか、そんな事はどうでもいい。
今はこの状況がよくわからない。
何だって先輩は俺に抱き付いているんだ?
何でいきなりこんな体制になってるんだ?
何で先輩が…。

俺の胸の中で小さく震える先輩を見ていると、俺はそれ以上は何も言えないし何も出来ない。
ただ、まるで現実味がないこの現状を必死で把握しようとしていた。

「あ、あの…」

いきなり"先輩と呼ぶな"と言われても、今更何て呼べばいいんだよ…。
それに、今の台詞とこの状況の意味がわからないほど俺は鈍感でもガキでもない。

この意味はわかるが、どう対応すればいいのかがわからないのだ。
いつものように冷たく交わすことなんて出来ない。
ましてやムリヤリ引き離すわけにもいかない。
寂しさからなのかはわからないが、とにかく今の先輩が傷ついているということはわかる。
離婚する際も、離婚をした後も、きっと今まで沢山の事に堪えながら努力して来たんだろうから。

「魚塚君…」

昔の先輩からは想像も出来ないくらいの、か細い声。
今にも消えてしまいそうなぐらいに弱々しくて力のない声だった。


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