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せめて、今夜だけ…
第3章 人魚
氷に水、目の前にコースターとロックグラス。
慣れた手つきで俺の注文したウイスキーのロックが出来上がって行く。
女性のキラキラとしたネイルが、所作に美しさを添えているように見えた。

「お外は、だいぶ寒かったんじゃありませんか?」
「えぇ、まぁ。この時期は冷え込みますから」
「暗くなるのも早くなって来てますものね」

適当な会話をしながら、女性は俺が注文したウイスキーを作ってくれた。
この女性には悪いが、俺は呑み直したいだけだし、ここは当たり障りのない会話で場を繋いでウイスキーの味を楽しもうと思っていた。

「お名前伺ってもよろしい?」
「あぁ。魚塚と言います。魚と塚と言う字で――――」

ボトルネームに使う為の自己紹介も済ませてボトルもキープした。
いい店を見つけたと少し嬉しい気分になっていた。

「ところで、魚塚さんのご職業は?」
「家具の販売です。Bijouxっていう会社なんですけどね」
「あら~、あの有名な大企業さん」

俺達の会社の名前を知らない女性はいない。
女性が好みそうな宝石のような装飾を施した家具も多い。
海外セレブ御用達のブランドなのだから。
そのぶん、値段もずば抜けてはいるが…。



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