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せめて、今夜だけ…
第3章 人魚
「Bijouxっていうのは日本語で宝石という意味なんです。こちらのお店の名前もフランス語ですよね?親近感を覚えて、思わず入ってしまいました」

「あら~、そうでしたの?それじゃあ、Sirèneっていう単語もご存知?」

「人魚でしょ?」

Bijouxに入ってから、妙にフランス語も覚えるようになってしまった。
仕事柄、フランスとの取引もよくある。
仕事に必要な日常会話ぐらいは何とか覚えた。
プライベートでフランスに行くことなんか滅多にないというのに。

ウイスキーを味わい、女性との会話もある程度弾んで来た時だ。



「失礼します。ママー、2番テーブルのお客様がお呼びですよー」

俺と女性の会話に割って入って来たもう1人の女性。

「あら、そうなの?」

どうやら、今まで俺と喋っていたこの女性がママで間違いないようだ。

「ごめんなさい、魚塚さん。少しだけ失礼しますね」
「はい、お気になさらず」

俺はウイスキーさえ楽しめればそれでいいし、こういう店でのママという存在は忙しいという事は重々承知の上だ。

「なつきちゃん、少しだけここにいてね」
「はい」

ママは、1人の女性を俺の目の前に残してカウンターを出て行った。
別に、俺は1人でも平気なんだが、これも店のルールなのだろう。
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