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せめて、今夜だけ…
第14章 火花
まぁ、どのみち体調はまだ本調子じゃないし食欲もあまりない。
先輩の事がなくてもそんなには食べられないだろう。

「はぁ…」

スマホを眺めながらため息を付いていると…

「あのなぁ、飯の最中にため息なんか付くなよ…。飯が不味くなんだろ」

俺の目の前で桐谷が不服そうな顔でそう呟いた。

「お前なー…」

俺が風邪で休んでる間、市原グループとの契約の話しは桐谷が全て請け負おってくれていたのだ。
契約は成立、社長と部長は大喜び。
その礼のつもりでこうやって社食を奢っているのだ。

しかし、先輩を口説こうとした事に関しては褒められた事じゃねぇけどな。

「しっかし、珍しいな。お前が風邪なんて」

俺が奢った蕎麦を食べながら桐谷が言った。
俺だって普通の人間なのだから風邪ぐらいはひくさ。
でも、この会社に入ってから体調不良は何度となくあったが、風邪をひいて会社を数日も休むのは初めてだったかも知れないな。

「蕎麦残ってるけど、まだ辛いんじゃねぇの?」

俺は注文した蕎麦に殆ど箸をつけていなかった。
まだ本調子じゃないせいもあるが、先輩へのメッセージの事を考えていると食欲も失せてしまう。

「まだ食欲は戻ってねぇんだ」
「大丈夫なのか?そうじゃなくてもお前ちょっとやつれたんじゃね?」


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